2007年8月25日新潟県某沢
報告 菊地顕一



7月8月はなんだかんだと忙しく、隊長たちがせっせと渓へ通うのを横目に、指をくわえてのお留守番ばかりであった。
久しぶりに行った新潟は仕事の関係で、1週間の新潟中越沖地震の災害調査要員。それはそれで非常にやりがいがあり、意義があることなのだが、やはり釣り人の悲しい性、長岡市から柏崎市へ向かう現場調査の行き帰りの車中で、「あ〜、○○川はここからすぐに行けるんだよなぁ〜。」なんて、少し不謹慎なことを思ってしまう・・・私だって人間だもの・・・
しかし、新潟から帰ってきた3日後の8月最終土曜日、今度はちゃんと釣り目的で、堂々と新潟の地を踏むことになったのだ。

今回のメンバーは信さん(隊長)、敏ちゃん(隊長妻)、貝好さん(桑原)、まーさん(桑原妻)と私の5人。まーさんが渓デビュー戦のため、キケンなところがなくマッタリと渓を満喫できる新潟県の「某沢」に行くことになった。
藪を掻き分け、潅木につかまりながら急斜面を下降する。デビュー戦のまーさんには、いきなりこの急斜面は、ちとツラそうだ。「キャー、ズルッ、ドシン」と尻餅をつくまーさんに、貝好さんが「しっかり足元を見て!木を踏むな、滑るぞ!」とアドバイスをする。こんなに頼もしい貝好さんを初めて見た。う〜ん、二人はやっぱり運命共同体!?などと最後尾を歩みながら思ってみたりする。
30分も下降すると目的の「某沢」についた。水面に反射した太陽の光と木々の緑がまぶしい。
軽く朝食を済ませ、いよいよ釣りながらの遡行開始だ。斜面の下降にてこずっていたまーさんも、沢に下りるとバランスが良いのか、ゆっくりではあるが着実な足取りで遡行している。
渓のデビュー戦が、何も知らずに隊長に連れて行かれた「秩父滝川」という敏ちゃんは、日頃のスパルタ教育、もしくは愛のムチ!?のおかげか安定した遡行を見せる。
 
目的の「某沢」に向け涸沢を進む                  余裕の女子二人組



隊長、貝好さん、私と小ぶりながらも数匹のイワナを掛け、大きな淵の手前にさしかかったとき、貝好さんが7〜8m先の左岸の際めがけてしきりに竿を振っている。

 
小ぶりながらも、まずは型をみる


「あそこに大きいのがいるんですよ〜。」と貝好さん。
「ん?どれどれ?」と見ると・・・「デッ、デッケェ〜!!余裕で尺オーバーだよ!『いるんですよ〜』なんて悠長なこと言ってる場合じゃないよ! 頑張れ、貝好さん。」
再びキャストを繰り返すが、食い気がないのか毛鉤に見向きもしない。


あそこですよ、あそこ〜!

「菊地さんどうぞ!」との言葉に、「待ってました!」とばかりに交代して竿を振るが、これまたまったくの無視・・・。
「んぎ〜っっ!くやしいけれどしょうがない!」と諦めかけようとしたその時・・・
「ピロリロリ〜ン♪」と大イワナが私めがけて泳いできて、「どうぞワタシを捕まえてちょうだい♪」と言わんばかりに「ピタッ」っと私の足元で定位し始めた。

チラリと横目で足元を見ると、とてつもなくデカイ。尺なんてとんでもない、優に40cm以上はある。急に心臓がバクバクと尋常じゃない鼓動を打ち始めた・・・
「もうこんなデカイやつに会えるチャンスは無いかも知れない・・・」「獲るなら今だ・・・」
そ〜っと頭に巻いていたタオルをつかみ、「ザバーッ!!」
獲ったどぉ〜〜〜!よゐこの濱口のあのシーンが脳裏に浮かんだ・・・
ビタンビタンと体をくねらすイワナにメジャーを当ててみると、若干幽霊がかっているものの47cmの大物であった。
自分自身こんな大イワナを、釣るっていうことよりも逆に、手で捕まえたっていうことにスゴク興奮した。


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みんなでイワナを眺めながら、「こんな沢でよくここまで育ったものだ。」とイワナの逞しさと生命力に感服した。
大きな個体からは大きくなる遺伝子を持った卵が生まれるという。当然のことながらリリースをするため、大きな魚体をやさしく持ちながら、ゆっくりと水の中へもどす。イワナは悠然と淵の中へと消えていった・・・


 
キッ、キモイ!?                              やさしくリリースする

興奮冷めやらぬまま再び釣り上がると、すっ飛んでくるようなイワナがかかった。リリースをきめ水辺に戻すと、そのイワナは流し魚籠の下に潜り込んだ。「よ〜し!」と手を伸ばすと、イワナはあっけなく私の掌に収まった。
「手づかみ師 菊地顕一」誕生の瞬間である・・・。


2度目の手づかみで「師」を確信した菊地

私自身の釣りによる大物記録は今から6年前、渓美隊結成後初の源流行、女川での38cmである。丸々と太った鯖のような魚体にシビれたものだ。(自分で写っている写真は持ってないが・・・詳しくはダイジェスト、2001年女川参照)
それから6年間、大きくても尺ちょっと。あまりにも番兵イワナばかり釣り上げるものだから、隊長から「釣りキチ三平」ならぬ「釣りキチ番兵」の称号を与えられたほどである。
今回の大物は新潟中越地震の支援に行った私をねぎらう「鶴の恩返し」ならぬ「イワナの恩返し」だったのであろうか・・・
もしそうなのであれば、私はあのイワナに対し声を大にしてこう言いたい。

「だったら、釣れてくれればいーのに!」