報告 菊地顕一



2008年の源流シーズンも終わってしまった・・・。
禁漁期はいつもグータラして体重がしこたま増えてしまう私も、四十路を過ぎ、今年こそはバッチリとトレーニングを積んで解禁に備えなければならないと思っている次第である。
10月の半ばからではあるが、朝の通勤の際に大宮から会社のある与野まで毎日片道30分強を歩いている。禁漁のこの時期にガッツリと歩いて体重を落とし、『ヤセマッチョ体型』&『痛風知らず』のカラダを手に入れるのだ。
そうそう、我が渓美隊には高橋隊長(信さん)が部長を務める『渓美隊ハイキング部』がある。何を隠そうワタシはいままで一度もハイキング部の活動に参加したことがない。一応、渓美隊の副隊長を務め、『渓美隊スキー部』の部長を務めるワタシだが、ここらでしっかりとハイキング部の部長である信さんに『やればできる子!!』をアピールしなければならない。それには実際に山に入り実績を認められるのがイチバンだ。11月に入ってすぐの3連休を利用し、単独で奥秩父を歩いて『やればできる子』をアピールしようと思った。(笑)
最初は奥秩父の栃本から十文字峠に至る登山道に入り、四里観音避難小屋で一泊。そして次の日は股ノ沢林道から、釣りでいつも利用させてもらっている柳小屋で一泊し川又へ戻るという2泊3日のコースを計画していた。しかし、日程が1泊2日となってしまい、信さんに相談したところ、「雁坂小屋で1泊のコースもいいんじゃない?」とのことで、その昔、武州から甲州へと抜ける唯一の路『秩父往還道』を雁坂小屋まで行き、そのまま滝川本流と豆焼沢を分ける黒岩尾根を通って川又まで帰ってくる『奥秩父プチ周遊コース』を歩くことに決めた。
11月1日(土)
いまワタシの家には車がない。したがってアプローチは必然的に公共交通機関となる。
AM7:00に川越から東武東上線に乗り込んだ。乗ってみてビックリ!車内にはザックを背負った中高年がひしめき合っている。「紅葉の季節だからみんな秩父方面に行くのかな?」と思いきや、ほとんどの人が小川町駅で下車した。後で知ったことだが、どうやら日本ウォーキング協会等が主催する『スリーデーマーチ』の開催日初日であったようだ。
寄居駅から秩父鉄道にのんびりと揺られ、終点の三峰口駅に着いたのがAM9:00ちょっとすぎ。ここからは西武観光バスと秩父鉄道バスへと乗り継いで終点の川又まで行く。
バス出発まで少し時間があったので、駅の立ち食いソバで腹ごしらえ。すると背後から3人のナップザックを背負ったオバチャン達がいきなり「東大の方ですか~?」と声をかけてきた。「そんなに賢くみえる?オレって・・・(笑)」
デヘッと照れながら「えっ、違いますけどっ。」と訳を聞いてみると、どうやら3人は入川沿いの森林軌道跡を歩き周辺を散策するらしい。
よくよく聞いてみると『東大演習林自由見学日』というものが設定されていて、その2日間は自由に入川周辺に入れるというものであった。 「いつも、ずっと奥まで入っているんですけど~、釣りで・・・。」と心に思いながらも、赤沢谷出合いまでの道のりを教えてあげた。
川又のバス停についたのがAM10時30分。 身支度を整え、川又観光トイレで用を足し、左手に入川観光渓流釣場へと行く道を見送って、雁坂峠登山口へ着いたのがAM11時。川越を出発して4時間が経過していた。やっぱり電車だと遠いな。でも今夜は水場もあるという『樺避難小屋』へ泊まる予定。登山地図でみると4時間の道のりだ。ゆっくり行っても15時くらいには小屋に着き、ひとり宴会の準備にとりかかるにはちょうどいい時間である。

 
マイクロバスに揺られ終点の川又バス停へ               入川観光渓流釣場に下って行く道の手前にこんな看板が・・

登山道に入るとしばらくは国道140号に沿って高度を少しずつ稼ぎながら、ゆるやかに杉林の中を進む。途中、大正時代に設置された道標があり、当時この道が武州と甲州を結ぶ唯一の街道であったことを偲ばせ、歴史を感じさせる。
杉林も途絶え広葉樹林が目立ち始めたころ、尾根筋の『岩道場(雁道場)』に着く。そういえば腹が減った。見晴らしはあまり良くないが、対岸に入川の赤沢谷の切れ込みが見渡せる場所でおにぎりをパクつく。
地図上ではここから『突出峠(つんだしとうげ)』まで急登が続くと書いてある。「まぁ、ゆっくり行きましょう!今日は自分ひとりなんだから・・・。」と独り言をつぶやきながら歩き始めた。シーンと静まりかえった晩秋の山は本当に心を安らかにしてくれる。

 
登山道入口 さぁここからスタートだ!                  雁坂峠まで10km

  

しばらくは杉林の中を進む                「右ハ甲州旧道、左ハ・・・」 大正11年の道標 

 
キレイに整備された登山道                        木々の間から入川赤沢谷の切れ込みを望む

             
キレイに整備された登山道はこの上なく快適だ。周りを見渡しながら歩いていると次第にミズナラの大木が目立ってきた。
「もしかしたらマイタケなんかあったりしてぇ~。」なんて、いままで一度も採ったことがないくせに妄想だけは人一倍である。
「1本目のミズナラ~、無いよね~。こっちの2本目~、無いよね~。3本目は~、当然無いよ・・・ね・・・ウゾ~、マジで~!マイタケゲッチューしちゃったよぉぉぉ~!」 マイタケを採ったときは舞い踊るというが、本当だったんだなとうい事を実感する。カラダがシビレまくった。
でもよくまあ、こんな道端の近くであったものだ。30cm四方はあるかというマイタケを生まれて初めてゲットしてしまったのである。すぐさま信さんに報告しなければと思い携帯電話と取り出すが、auは当然県外・・・。電波の通じるところまで嬉しい報告はガマンしよう。


デデーン!!


ひとりでバカみたいですがセルフタイマーでパチリ


「道はキレイだし、マイタケゲットしたし、ルンルンだな~。」と思ってた矢先のこと、「ツンダシ峠まであと一息だ あなたも私もはいつくばって登るんだ」という看板が木に打ち付けられていた。山と高原地図には突出峠:急登との記載があったが、今年は胎内での池平峰への延々と続く急登を経験しているせいか、はたまたザックはいつものバフィンを背負ってきたが、荷物は半分、ツマミも一人だからと全然持ってこなくて超軽量だったせいか、楽々と登ってしまいちょっと拍子抜けしてしまった。
13時30分、突出峠に到着。休憩も含め、ちょうど地図に記載されているコースタイムで歩いている。ここからは平坦な道らしい。今日の泊まり場の樺小屋までは50分で着くという。ここからはもうちょっと周りの風景を楽しみながら、ゆっくりと一人の時間を楽しむことにしよう。

 
はいつくばっても登るって、時間かかっちゃうでしょ~                    突出峠 樺小屋へはあと少しだ


いったい何人の人がこの路を通ってきたのだろう

14時20分、これまたコースタイムピッタリに『樺避難小屋』へ到着。入川と滝川豆焼沢を分ける尾根の開けたコル部に樺小屋はひっそりと建っていた。外観は入川の柳小屋そっくりだ。 そういえば小屋の名前が『樺』とか『柳』とか木の名前になってるな。ここいらは樺の木が多いけれど、柳小屋の周りには柳の木はないな。柳小屋の名前の由来はなんだろう?と不思議に思う。 樺小屋は内装も柳小屋に似ているが、ひとつ違うところがある。なんと室内に『薪ストーブ』が設置されているのだ。腕時計を見てみると標高は1785mを指している。おそらく夜中は氷点下になるだろう。薪ストーブの存在がなんとも嬉しい。
テン場服!?に着替え、ザックから荷を出し、まずは寝床の用意をする。今日は酔っ払ったオレを、いつも寝床まで連れてってくれる佐藤くんはいないのだ。 用意周到間違いなし!
水場は小屋から豆焼沢側に5分くらい下ったところにある。地図上ではトーガク沢の枝沢であろうか。もう一度下りてこなくてもいいように4ℓの防災ポリ袋にパンパンに水を詰めて運ぶ。
夜になるまで酒がガマンできそうにない。そう、一人なのだから自分のペースでやればいいのだ。16時に『ひとり宴会』スタートと決め、準備にとりかかる。ツマミはカレーとドテ煮のレトルト。釣りシーズンの山の中には絶対に持っていかないであろうレトルトパックを見ながら「失敗!ちゃんとしたツマミを持ってくればよかった!」と一瞬残念に思ったが、そうだ!今日は採りたての天然マイタケがあるじゃないか!!ひとり贅沢にマイタケ・パーリィーを楽しもう!
カレーのご飯は当然『マイタケご飯』。マイタケの香りがカレーの風味に負けてもったいない気もするが、なんたって初収穫であるからして、そのくらいのことは許されるであろう。あとは、マイタケの塩コショウ炒めを作り『ひとり宴会』のスタートだ!
山の端から太陽が姿を消し、辺りを闇が支配する。でも小屋の中は薪ストーブのおかげでとても暖かい。外は氷点下2℃、小屋の中はなんと18℃もある。
天然マイタケの風味を強烈に感じながら、芋焼酎をグビリと呑る。「う~ん、うまい、うますぎる・・・。埼玉銘菓十万石饅頭」などと独り言をいってみたりする。
一人静かに飲んでいると今年の釣行や色々なことを思い出す。たまにはこんな時間があってもいいかな?とは思うものの、渓での仲間たちとのいつもの飲み会とは違い、賑やかさがないことを急に寂しく思う。
「ひとりだから・・・。」と持参した500mlの焼酎も底をつき始め、「もう寝よっと」と思ったらまだ19時。ちょうどよい酔い加減で久々に自力でシュラフに潜り込むことができた(笑) 佐藤くん、オレもやればできるんだよ・・・。


樺避難小屋  開けた場所にひっそりと建っている

  
玄関入ってすぐの薪ストーブが嬉しい                   中も柳小屋と同じ作りである

 
せっかくだから豪勢にマイタケ食べなくちゃね!                でもひとり宴会のツマミたちはちょっと寂しい・・・


11月2日(日)
朝4時30分起床。朝食のパンをかじりながら、空が白々とするのを待つ。
6時ちょうどに樺小屋出発。今日は雁坂峠を通り、黒岩尾根経由で川又まで帰らなくてはならないのだ。早く出発すればもしかしたら川又から1本前のバスに乗れるかもしれない。
朝の空気を胸いっぱい吸い込み、整備された登山道を歩く。多少のアップダウンはあるものの、ほんとに気持ち良い道が続く。最後の登り『だるま坂』を過ぎ、少し行く景色が開け前方に雁坂小屋が見えた。
7時40分、雁坂小屋へ到着。 小屋のご主人が「ずいぶん早く来たなぁ~、どっからだ?樺小屋あたりからか~?」と笑顔で迎えてくれた。 ご主人から「水晶山方面へ行く左の道を登って行って、奥秩父主尾根を少し歩いて雁坂峠までいくといい。」と勧められ、そのコースを歩くことにする。10分ほどで稜線に立ち、そこからまた10分ほど歩いて雁坂峠へ到着した。山梨側の景色が眼下に広がる。
埼玉側の山奥深い景色と比べると、山梨側のそれは開けた草原!?のようだ。遠くに富士山も見える。標高は2082m、釣りもしない山登りだけで初めてこれだけの高さのところに登ったが、登ったときの達成感といい、この景色といい、ハイキング部のみんなの気持ちがわかるような気がした。なんともクセになりそうだ。

  
最後の登り「だるま坂」を過ぎると超水平道になりダッシュしたくなる(笑)雁坂小屋まであと少しだ!


前方に雁坂小屋が見えた

 
雁坂小屋へ到着                       日本三大峠「雁坂峠」 2,082mにキター!!


山梨県側の眺め 遠くに富士山が見える


埼玉県側の眺め どれがどの山だか分かりませんが・・・

 
冬の間でもそこの畳で寝れるから使っていいよ!とご主人が言っていた。でも寒いから来ないだろうな・・・冬は・・・


雁坂小屋を8時30分に出発する。もし11時20分までにスタート地点の川又に到着すれば1本早いバスに乗れるのだ。そのバスを逃すと次は13時40分のバスになってしまう。地図では雁坂トンネルの手前の『出会いの丘』まで3時間と記されている。「イチかバチか、こりゃ~気合で駆け下りるしかないな!」
本当に駆けるように滝川本流と豆焼沢を分ける黒岩尾根を下っていく。最初は良く整備された道だったが、高度を下げていくにしたがい、ちょうど釣橋小屋へ行く杣道のようになり、落ち葉が道を埋め尽くし滑ってしまって歩きにくいことこの上ない。「あ~、どんな時でもやっぱり奥秩父にはピンソール必携だな。」とつくづく感じた瞬間である。
ズルズルと足下を滑らせながらも気合いで下り、豆焼橋へ着いたのが10時40分。コースタイムよりも約1時間早く着いた。「ようし、この勢いで川又まで駆け下りてやる~!」と歩き始めるものの、15分もしない内に右足のヒザがズキズキと痛んできた。固いアスファルトの舗装路でやっちまった・・・。川又まで5km強、しかも40分で到着しようだなんて所詮ムリがあったのだ。アホだなオレって・・・。
時は11月最初の3連休の中日。行きかう車は多いのだが紅葉に夢中なのか、棒っきれを杖がわりに足を引きずるオレなんて誰も気に留めてはくれない。世知辛い世の中に涙しそうになりながら、やっとのことで川又のバス停へ到着したのが12時きっかり。里に下りてきているのにカラダは超シャリバテ状態だ。

  
旧140号線 「国道便所」                 落ち葉の積もった道をダッシュで下って行く

 
滝川水晶谷の切れ込み                 カツラ久保 豆焼橋まであと半分くらいか・・・?


もはや紅葉を楽しむヒマなどはない

 
ここから急激な下りが始まる               やっと車道か見えてきた ここから舗装路歩きだ


次のバスまで1時間30分以上ある。「まずはメシだ~。」と思い、バス停近くにある、そのあたりでは唯一の店に入る。看板には「定食」の二文字が書かれていた。
「すみませんねぇ~、ウチはうどんとかカツ丼とか、そういったものはやってないんですよぉ。イワナ定食とかだったら用意できるんですけど・・・。」と店の人が言う。禁漁期であるが、何を好んで高いお金を出して養殖イワナの塩焼きを食べなくてはならないのか・・・。あまりのせつなさに、またまた涙が出そうになった。
「そうだ!!」ザックの中に非常食のラーメンがあるのを思い出して、バス停近くの東屋でビリーカンとバーナーを取り出し作り始める。「こうなったら豪勢なラーメンにしてやる!」とザックの中に大切にしまっておいたマイタケを取り出し、ラーメンの具にした。
「うん、やっぱりマイタケラーメンは最高だな!天然だもんね~、時価だよ、時価!」とすっかり機嫌をとりもどしたワタシだった。
待ちに待った川又からのバスに乗り、秩父湖で乗り換え秩父鉄道の三峰口駅まで戻ってきたのが15時。ここでもまた次の電車まで40分という待ちぼうけをくらい、「いったいどれだけ待てばいいのですか!」と再びふてくされながら、駅前のベンチでワンカップの酒を煽りながら、時が過ぎるのを待った。

 
東屋でラーメンを煮る                            マイタケラーメン(餅入り)

 
里の方が紅葉がキレイ!?                       ふてくされながら地酒「秩父錦」を煽る


川越に戻り、帰り際に信さん宅に寄ってマイタケをおすそわけ。当然のことながら酒盛りになる。山から下りたらやっぱりオ・ニ・ク。
ジンギスカンが胃袋を刺激する。天然マイタケと母方の実家で作っているブランド芋『川越芋』、秋の味覚のコラボレーション「マイタケ・川越芋ご飯」を炊いてくれてご馳走になる。
途中、別のところで呑んでいた佐藤くんも合流し、いつしかいつもの見慣れた光景となっていった。(ていうか、本当は佐藤くんが来たことも覚えてないけどね♪)



信さん宅であらためて記念撮影

 
しかし見事な株だぁ♪                            ジンギスカンうめ~!


マイタケ・川越芋ご飯

 
んでもっていつもの様に撃沈、見慣れた光景となる


今回、避難小屋ではあったが単独で泊まり、約25キロを2日間かけて歩いた。
いつも仲間達でワイワイガヤガヤと楽しく山に入っているから、ひとりで行くのは寂しくてツマラナイかな?と思っていたが、なかなかどうして『ひとり旅』もオツなものだ。 自分の中でまた少し、山への世界が広がったような感じがした・・・。