木曜の夜に第1サティアンを出発、関越から上信越道に乗り志賀高原へと向う。
先週は魚野川渋沢ダム上流に入る予定であったが、ダム上流が増水という情報を得て雑魚川に転戦した。 少し心残りだった私と菊地、佐藤の3人は、予定していた朝日の沢から再び転戦、登山道からアプローチして庄九郎沢を下降、魚野川源流を詰めることにした。
車止めに到着すると、外気温なんと3℃・・・まるで冬の寒さだ。これでは源流部はまだ雪に埋まっているかもしれない。「まー行くだけ行ってみるか!」と準備を始めた途端、「やべ〜っ!」とけんちゃんが叫んだ。なんと渓流シューズを忘れてしまったと言うのだ。慣れた場所ならまだしも、今回は未知のルート、しかもかなりの困難が予想される。場所を変えるか、けんちゃんを置いて行って下山日に迎えにきてもらうか、などなど協議の結果、今履いているアディダスのスニーカーでとりあえずフリクションを試してみて、あまりにも危険だったら引き返す、という結論に至った。


  
登山道入口 ここから旅が始まる                     3本線はどこまで渓に通用するか


朝6時半に岩菅山に向う登山道を出発。久々の2泊装備、ザックが肩に食い込む。ビールが、ワインが、焼酎が、肉が重い。しかし登山道はよく整備されており、2時間弱で下降点であるノッキリに到着した。左手には岩菅山山頂が見える。「ついでに登頂してっちゃうか〜?」なんてこの時はまだ余裕だったのだが・・・。


  
上条用水路とアライタ沢                岩菅山山頂 右手鞍部が目指すノッキリだ

地図とコンパスで下降ルートを確認。「よっしゃ、この方向だ!」
ヤブ漕ぎ隊長佐藤を先頭に猛烈なネマガリ地獄へと突っ込んでいく。
「こっちでいいですか〜?」「ちょい、気持ち左ぃ〜!」などとやっていると、10分もしないうちに雪渓が現れた。通常ならヤブであろうところがまだ雪で覆われているようだ。ヤブ漕ぎは少なくて済んだがあとが怖い。やがて足下に水流が現れホッとしながらも、この先悪い雪渓が現れないことを祈りながら下降していく。が、やはりそうは問屋が卸さなかった。7m滝をゴボウで降りたあたりからは険悪な雪渓が待ち構えていた。 両岸はネマガリの密生した崖で高巻くことは考えられない。慎重に、慎重に、次から次へと現れる雪渓をクリアしていく。 何度かヒヤッとする場面もあり、それでもコシアブラはしっかり採りながら、ようやく魚野川本流へたどり着いたときにはノッキリから4時間半が経過していた、3人ともグッタリ。おまけに少し前から降りだした雨がだんだん強くなり、猛烈に寒い。


  
残雪のノッキリでピンソールを装着                     庄九郎沢を下降する

  
                                           この辺りから危うい雪渓が始まる


本流に降り立つと懐かしい大岩


「3日間晴れ予報じゃなかったの〜!?」とブツブツ言いながらタープを張る。寒いからテン場服に着替えるというけんちゃんを残して佐藤と少し釣りをすることに。
すぐ上流のナメの落ち込みに毛鉤を打ち込むと、1発で良型のイワナが飛び出した・同じポイントでもう1匹。「佐藤、いるぞ!」次のポイントで佐藤も簡単にエサで釣り上げる。 しかしあまりの寒さに鼻水垂れっぱなし、体の震えが止まらない。
「3人分釣ったからもういいよな、この分じゃ明日も爆釣だよ。」
幸いにも夜には雨は止み、盛大な焚き火を囲んでの楽しい宴会となった。


  
けんちゃんの「キャベツとアンチョビのパスタ生ハム添え」                      やっぱイワナの刺身でしょ!

  
佐藤家秘伝の柚子胡椒で焼鳥を食す                  寒いときにはこれですな


2日目の朝、早々に朝食を済ませタープを片付ける。普段は2日も3日も同じテン場でグータラ過ごすのが渓美隊スタイルなのだが、今回は源流を詰めて稜線に抜けるのだ。 帰路はおそらく昨日以上の雪渓に苦しむであろうことを考えると、少しでもテン場を上に上げておく必要がある。
けんちゃんはシューズの上から靴下を履いている。ちょっとカッコ悪いがこうするとフリクションは抜群だそうだ。
「ほんと全然滑らないですよ!今度から靴下2〜3枚余計に持ってこよ〜っと!」
「シューズ忘れなきゃ靴下いらんだろ!」
なんておバカな会話をしているうちに、懐かしの庄九郎大滝に到着。大滝を越え、大岩の連なるゴウトウを抜けたあたりから竿を出す。 すぐにけんちゃんが9寸を引っこ抜く。続いて佐藤が8寸。「これどうしましょうか〜?」
「放しちゃえ!今日はどうせ爆釣だから9寸未満はリリースで〜い!」
ここでけんちゃんにアクシデント。アワセた瞬間に3番あたりから竿が折れてしまったのだ。おそらくキズが付いていたのだろう。アワセ切れはよく聞くけれど「アワセ折れ」というのも珍しい。
しばらくしてけんちゃんを見ると、折れたはずのテンカラ竿を再び振っている。「あれ?けんちゃん竿直したの?」{いや、もう1本持ってきたんすよ。」
エサ竿を予備に持ってくるならまだしも、テンカラ竿を2本持ってくるとはなんと準備のいい男だ・・・渓流シューズは持ってこないのにね。
その後、日が高くなり雪シロが入るとピタッと食いが止まってしまった。イワナがいない訳ではない。大淵には尺上を含むイワナの群れが悠然と泳いでいる。急に興味がなくなったかのように毛鉤を無視するのだ。佐藤がエサでやってみるが結果は同じ。
たった今毛鉤を打ったポイントを通過しようとするとビュンとイワナが走るのだ。「いたのかよっ!」と、さまぁ〜ずの三村ばりのツッコミを何度繰り返したことか・・・。


  
2日目はこんな感じで                            ナメ好きにはタマラナイ渓相(ねっ、貝好さん!)

  
庄九郎大滝で運試しも、不発                       ここからゴウトウが始まる

  
極上のハリギリをゲット!                          食べごろのウドも

  
しばしイワナと戯れる

  
                                そろそろ源流らしくなってきた

  
滝を登る シャワーが冷たい                          今日も1日お疲れさん!


ここはすでに標高1600m程ある。この氷のように冷たい減流域ではイワナ釣りはまだ早いのかもしれない。 予定キープ数には足りなかったが竿を仕舞いテン場に向う。昨日の疲れと釣れない疲れ、いつもの倍近い水量、水温の低さに心が折れそうになる。
南沢出合、追詰の滝を越え、本日もヘロヘロになってテン場到着。 今晩は天気も良さそうなのでタープを高く張ろう。満天の星空の下、呑んで、食って、語らい、そして歌う・・・渓の夜は最高だ!

朝方はシュラフに潜り込んでいたが、寒くてほとんど眠れなかった。ようやく朝の光を感じて起きてみたらビックリ!干しておいた遡行服やシューズがパキンパキンに凍っていた。 今日も急いで食事を済ませ、撤収の準備にかかる。 おそらく源頭は雪に埋まっているだろう。 



2日目のテン場は最高だった

  
朝起きたらズボンがパリパリ!                       最終日はファッショナブルにキメて・・・?


地図を見て検討の結果、南向き斜面で雪解けの早そうな寺子屋沢を詰めることにする。出合から間もなく倒木の折り重なった滝に難儀したが、その後も滝はあるものの概ね「春の小川」状態で歩きやすい沢だ。 しかし高度を上げてくるとやはり雪渓に行く手を阻まれた。 「うわっ!すげっ!」今度は完全にアイゼン、ピッケルの世界だ。しかし我々の武器は「ピンソール」とストック(佐藤はノコギリ)しかない。おまけに私のピンソールは初期型で、ピンは半分にすり減り丸いポッチが付いている程度でと〜っても心許ない。足を滑らせたら200m一気に滑落、という急斜面を「ポッチ・ソール」に全てを託して登っていく。一瞬たりとも気の抜けないトラバースが延々と続く。
「あ〜また雪渓だ、いつまで続くのかな〜。」「雪山登山なんか絶対やんねーぞ!」
皆もう雪渓歩きにウンザリしている。結局、詰めのヤブ漕ぎ直下まで雪渓は続いていたのであった。登山道に飛び出したときには3人とも疲労困憊。
「ああ〜づいだぁ、づがでだぁぁぁぁぁ!」


  
寺子屋沢出合で竿を出してみたら・・・                         延々と続く雪渓

  
源頭までこんな調子                              稜線から遡ってきた谷をなぞってみる


今回は苦労した分楽しかったが反省点も多かった。予想以上の残雪に準備が足りなかった。せめて軽アイゼン、ウド掘りに使っている通称「山菜ピッケル」でもあればもっと安全な山行ができただろう。
それにしてもけんちゃんは渓流シューズなしでよく遡行したものだ。そして特筆すべきは「アディダス」のシューズであろう。専門外の過酷な3日間に耐え、アッパーと靴底の間が少し破れた程度。さすがは「世界のadidas]である。 1日も早く、「adidas WadingShoes魚野川 SuperDX」の開発を急いでもらいたい・・・んなわけないか。
帰りは登山道でノッキリまで戻る計画だったが、疲れたので高天原スキー場のリフトで降りることにした。高山植物園を歩いていると数年前の出来事を思い出す。 木道で女子高生らしき4〜5人グループと「こんにちは〜!」とすれ違ったのだが、その直後に「自衛隊の人かな?」という彼女達の会話を聞いてしまったのだ。演習かなんかと勘違いしたのだろうか、お花畑の真ん中で、それほどまでに我々は浮いていたというのか・・・。
やばい!前から外人のカップルが歩いてきた。
「Oh!ニンジャ!?」とか言われたらどうしよう・・・。



リフトでラクチン♪  でもこのあと車まで歩かなくちゃ〜