報告 高橋信博




今回は朝日連峰の沢に行く予定であった。本当は昨年行くはずだったのだが、私の負傷欠場により今年に延期になったのだ。「今年こそは!」とシーズン当初より気合入りまくりだったのだがまたしても・・・今度は天気が悪いのである。出発前日まで様子を見るが、天候回復の兆しはない。予定の沢は好天が絶対条件、残念だが転戦するしかない・・・。
そこで選択したのが秩父荒川の源流、真ノ沢。ここには数年来の宿題がある。
通常この辺りの釣りは、入川渓流観光釣り場より赤沢谷出合を経て股ノ沢林道を延々と歩き、柳小屋をベースに真ノ沢、あるいは股ノ沢を釣るのが一般的である。
何度かこの渓に通ううちに、赤沢出合から柳小屋、千丈ノ滝を越えて木賊沢の先まで、全て沢通しに遡行してきた。3年程前には股ノ沢も詰めた。唯一真ノ沢最源流の遡行を残したままだった。今しかない!・・・荒川の一滴まで詰め上がり、甲武信ヶ岳に立つのだ! 小学生の頃、荒川水系の川でフナ釣りを覚え、中流部の玉淀でハヤを釣り、浦山口でヤマメ釣り・・・成長とともに上流に遡ってきた。
「子供の頃から荒川に慣れ親しんできた埼玉県人としてぇ、何としても成し遂げねばならない〜!」とばかりに隊員にメール。皆気持ちよく賛成してくれた。
地図と睨めっこして選んだコースは、信州側の毛木平から登山道で十文字峠に登り、四里観音から股ノ沢林道を柳小屋まで降りる。あとは真ノ沢を詰めて甲武信ヶ岳に登頂、反対側の千曲川水源地に降りて源流歩道で毛木平の駐車場に戻るという、書くと短いが結構なロングコースである。甲武信ヶ岳はその名の通り、甲州、武州、信州の境に位置し、笛吹川、荒川、千曲川の水源である。このうち2つの大河川の源頭を繋いじゃおう!という贅沢かつ疲れそう(?)な計画がここに誕生した。

1日目
<毛木平〜十文字峠〜柳小屋>
早朝、車中で目を覚ますと毛木平はドシャ降りだった。もう一眠りして9時に起きる。雨は相変わらずだ。「秩父よ、お前もか・・・しょうがねぇからキャンプ場でバンガローでも借りて宴会して帰るか〜。」と諦めモードで廻り目平キャンプ場を目指す。地図を見ていたけんちゃんが、「上に大弛(おおだるみ)小屋っていう山小屋がありますよ!」「無人小屋だったらそこで宴会するか!」と未舗装の林道をどんどん登っていく。着いてみるとなんのことはない普通の営業小屋であった。びっくりしたのはここが自動車で来られる日本最高所(2,360m)の峠だったことだ。「へぇ〜!」なんて感心しながら十文字、甲武信方面を眺めると、何と晴れ間がでているではないか!
「行っちゃうか〜!」と結局ドライブした道を再び毛木平に戻り、昼前にようやく十文字峠に向けて歩き出した。
重荷に喘ぎながら八丁坂を登り、十文字小屋で一休み。そこから栃本へ向かう山道を行き、四里観音から股ノ沢林道に入る。以前股ノ沢を釣った帰りに辿った道ではあったが、今回はやけに長く、険悪に感じた。再び雨が降り出したこともあって、その夜は柳小屋に泊まることにした。釣り人が1人泊まっていたので小屋では騒げない。佐藤達が外に立派な雨天宴会場を作ってくれ、楽しい宴会となった。

生ビール呑むど〜!


と思ったら小屋は留守

 
頭から湯気を出しながら地図を開く                    久しぶりの柳小屋


特設宴会場で「カンパ〜イ!」


まにちゃんのシュウマイ


焼鳥を佐藤家特製の柚子コショウで


けんちゃんのコンビーフパスタ


宴会は深夜まで続いた


2日目
<柳小屋〜千丈ノ滝〜テン場>

釣り人は早朝出発し、真ノ沢を股ノ沢出合から釣るようだ。そこで我々は真ノ沢林道を一気に滝上まで上がり、竿を出しながら進むことにする。 ここの登りも辛かった。大体我々は荷物が多すぎるのだ。ビール、ワイン、日本酒、焼酎、そして各自がこれでもかの食材、ビリーカンも各自、フライパンは4人で3個、要らねーだろこんなに・・・。
もうオレ45歳だからね。こんな山行の時ぐらいは軽量化考えなくちゃ。佐藤とまにちゃんはまだ大丈夫だけどね(笑)
久しぶりの滝上は倒木がやたらと目立ち、荒れた印象であった。以前テンカラ竿が振れたポイントもほとんど振れない。早々に竿をしまい、エサ釣りの3人に付いて歩く。
魚影は薄かった。食いが悪いかウデのせいならよいのだが、最近イワナの大量持ち帰りの噂も聞く。実際私の知人は、2人組(地元らしい)に股ノ沢で釣ったという尺上ばかり30匹以上(最大40センチ)を、柳小屋で自慢げに見せられたそうだ。その話を聞いて呆れ果てた。尺上だけで30匹以上ということは大小合わせて一体何匹釣ったのか?あの沢で通常は考えられない。違法漁法によるものかもしれない。実は私も地元、ある時は漁協を名乗る釣り人から何度か不快な思いをさせられている。長くなるのでその話は別の機会に譲るが、そんなことがあってから私の中で秩父はある意味釣りの対象ではなくなってしまった。山旅・沢旅の対象と見れば腹も立たないからだ。だが他県から来る人に対して恥ずかしいので、地元丸出しの権利主張、「おらが山、おらがイワナ」はもうやめた方がよい。こんなことを書くと良識ある地元の釣り人はムッとくるだろうが、一部この様な人間もいるという事実である。真ノ沢も千丈ノ滝から上は流れも細くなり、魚止めも遠くはない。釣り人が大切にしなければ、希少な「秩父イワナ」はいなくなってしまうだろう・・・。
支沢の出合に絶好のテン場を見つけ荷を降ろした。佐藤とまにちゃんに魚止めの確認に行ってもらい、その間にけんちゃんとタープを張り薪を集める。
「イワナいましたよ〜!」帰ってきた2人に写真をみせてもらい、少しホッとした。


起きろ〜!


千丈ノ滝から上流を釣る

 
ラーメンがありがたいほどに寒かった                  魚止めまで釣ってみる




イワナは健在であった


ふっかふかで極上のテン場

 
たまには草食系でヘルシーに


腕を振るうまにちゃん

 
けんちゃんは「ナン」を作成中                      ペンネ・アラビアータのソースにつけて食す

 

ピンクレディー(UFO)熱唱 そして・・・                  轟沈・・・zzz


3日目
<テン場〜荒川源流点〜甲武信小屋〜甲武信ヶ岳〜千曲川水源地〜毛木平>
6時半に起床。今日はいよいよ核心だ。歩きも長いので早めに仕度をして出発。
途中3人組の沢屋さんと抜きつ抜かれつになり、めんどくさいのでしばらく休んで間を空ける。渓は小滝が連続し、どんどん高度を上げて行く。滑滝や、不動の滝、駒鳥の滝など立派な滝も多く、秩父の渓は決して他の山域に見劣りしないと誇らしげな気分になる。上流へ行くほど倒木が行く手をさえぎり、潜ったり、乗っ越したり、巻いたりと忙しい。疲れただのかったり〜だの言ってるうちに、やがて水線は細くなり源頭が近づいてきた・・・。
「あったど〜!源流点の碑だぁ!」「おお〜っ、やっと着きましたね!」
ついに荒川の源流を登り詰めたのだ!しばし感動を味わったあと、踏跡で甲武信小屋へ。そこには色鮮やかなテントの花が咲き、小屋前は大勢の登山者で賑わっていた。大型ザックに泥だらけ、焚き火の煙でイブサンローランな我々はヒジョ〜に浮いているらしく、恥ずかしいので早々に立ち去り先を急ぐ。そしてついに百名山甲武信ヶ岳(2,475m)の山頂に立った。柳小屋から標高差約1,350m、荒川源流を辿る旅は終わった。


最終日 いよいよ核心だ


不動の滝 10m


滝が続く


三宝沢出合 駒鳥の滝


唯一平らで歩きやすい区間


ついに到着
! 荒川源流点


甲武信小屋で記念撮影


あと一息!


甲武信ヶ岳山頂


ここからは国師ヶ岳、金峰山への縦走路を歩き、途中の分岐を梓山方面に向かう。
急な下り坂をしばらく行くと千曲川水源地。ここから始まる「千曲川源流歩道」の長いこと長いこと。肩に食い込むザック、単調な遊歩道・・・「肩痛〜い!」とか「もう歩きたくな〜い!」とか言いながら、ようやく十文字峠への分岐点に着いた。ほどなくして毛木平に到着。入山日は貸し切りだった駐車場は、甲武信への登山者の車で賑わっていた。
宿題がようやく終わった。


川上村は高原野菜発祥の地である