報告 佐藤 恵亮




やばい、集合時間に間に合わない。ピッケルをくくりつけたでっかいザックを背負い、登山靴を履いてアスファルトの道を自宅から駅に向かって小走りしている私。アルコールが全身に回る。
今回は、川越渓美隊史上初の夜行列車を利用した山行ということで、タイミングよく!?企画された職場の飲み会に参加してしまったのだ(嬉)
数週間前、隊長からゴールデンウィークはどうしようか?と話を持ちかけられ、私はすぐに雪山に行くことを提案。隊長は当初釣りを考えていたようで、「おっ!?雪山?」といった反応だったが、日光白根のリベンジに参加できずに悶々とした日々を送っていた私としては、何が何でもこのシーズン中にもう一度雪山に行きたいと思っていた。
「北アルプス蝶ヶ岳どうですか?夜行列車で!」
最近の私は、週末に山に行けないその鬱憤を晴らそうと、雪山ルートを紹介する本や山に関係する小説をむさぼり読んでいた。「北アルプスへ夜行列車で行ってみたい。」そんな気持ちが沸いてきたのは井上靖の『氷壁』を読んでからだっただろうか。
「ゴールデンウィークとETC休日1,000円で高速はどこも渋滞ですよ、きっと。」
我らの雪山リーダー、石川さんにも相談して他の案もいくつか考えたが、交通状況や雪の状態、何より我々雪山初心者の実力を考え、川越渓美隊の北アルプスデビューは蝶ヶ岳と決まった。
23:54新宿発ムーンライト信州81号〜4:32松本着、4:45松本初松本電鉄上高地線〜5:08新島々着、5:20新島々発上高地行きバス〜6:20上高地バス停着
今回利用するムーンライト信州は、一定の期間だけ運行される特別列車で、少し前まで特急に使われていた年季の入った車両を使用している。座席もこれといって広いわけでもない。しかし、通常の乗車運賃に510円の特別乗車券をプラスしただけで、全席指定のトイレ付き電車に一晩中!?乗れることや、運転をしなくても目が覚めると目的地に必ず到着すること、おまけにいっくらお酒を呑んでいてもOKという魅力満載の夢のような移動手段なのである。
池袋駅でみんなと合流できた時は集合時間を10分オーバー。申し訳ない。
チケットを一人ひとりに手渡し、急いで新宿へと向かう。人ごみの中で80リッターのザックを背負って歩くのは結構気を使うものだ。ホームにはすでに緑色の列車がスタンバイOK.。「間に合ってよかった。」と、ふっと胸をなでおろす。写真撮影を済ませ「さあ、酒を買いに行こう!乾杯だ!」と意気込んだのも束の間、「KIOSK営業時間終わってるじゃん!!!」
諦めきれる訳もなく、ザックの中をゴソゴソ・・・。テン場での宴会に支障のない程度に酒を出し乾杯をする。周囲に目を配ると、網棚の上には年季の入ったザックがずらりと並んでいる。やはり、同じプランで北アルプスに向い人々がたくさんいるようだ。
軽く睡眠をとり、松本で私鉄に乗り換える。朝の4時半にもかかわらずホームは通勤ラッシュさながら。乗り換えた電車は『山男搬送車』状態になっていた。終点の新島々では、この一番列車を上高地行のバスが待ち構えていてくれ、すぐに乗り換えができる。とは言っても「ピッケル、ストックはザックから外してください!」とアナウンスされ、不慣れな公共交通手段の利用に慌てる場面もあった。
上高地バスターミナルに向け、バスは山の中を進む。大正池を過ぎたあたりだろうか、雪を被った穂高連峰が雲の中にうっすらとみえるようになる。
6:20上高地バスターミナルに無事到着。入山届を提出し、スタッフのおじさんに山の様子を聞くと「昨日までは変わりやすい天気で、雪になることもあったよ。これからは良さそうだけとすぐ変わるからねぇ。」とのこと。大丈夫!予報は良かったし、食料はたっぷりある。みやげ物を物色しながら軽く飯を済ませ出発する。


新宿発「ムーンライト信州」で松本へ



松本〜新島々 乗客はほぼ登山者



上高地に到着  「出発進行〜!」

河童橋のたもとでは、風になびく鯉のぼりの家族に出迎えられ季節を感じる。梓川に沿った遊歩道を歩きながら、周囲の山々についつい見とれてしまう。最初の目的地である嘉門次小屋にはあっけなく到着。明神池を柵の外から見学し、歴史を感じる趣のある小屋へ。秘伝の技があると噂の岩魚の塩焼きを食べてみたかったのだが、朝飯から時間も経っておらず断念。とりあえず川を泳ぐ岩魚ちゃんたちをウォッチングしながらビールで乾杯となった。


これが有名な河童橋


河童橋から見た梓川と穂高連峰


嘉門次小屋にチョイと寄り道


ビールでカンパ〜イ(1回目)


明神橋


明神岳を見上げる


穂高連峰かっけ〜!

1時間ほど歩くと、徳沢園に到着する。ここは『氷壁』の舞台になった宿で、私も興味津々。短い休憩中も色々なところをジロジロ見てしまった。ここではビールを飲まずにガマン!
ここからさらに川に沿って歩くこと1時間。12時前に今日の泊まり場の横尾に到着する。川の向こう岸には、ザックリと切れ落ちた「屏風岩」が見える。登っている人はいないかと目を細めるが確認できなかった。
横尾山荘でキャンプの申し込みを済ませ。昼飯そしてビール!北アルプスは少々割高だがどこでもビールが買えるのが嬉しい。そういえば昔、秩父に釣りに行った時、500mlのビールを20本以上(ザックはほぼビールで満タン)背負い、途中で動けなくなった人が千葉軍団にいた。彼もお金をたくさん持って北アルプスに来れば、あんな思いをしなくてすむのだなぁとひとりニヤニヤしてしまう。
テントの設営をしたり、周囲の様子を見に行ったり、さらにはちょっぴり昼寝までしちゃったりしてのんびり体を休める。3時を過ぎたころから隊長作のフキノトウ味噌をつまみに少しずつ宴会準備を開始。「やっぱり明るいうちは外でしょう!」ということでテントの脇に銀マットを広げ宴会会場の出来上がり。今回のなべ奉行はけんちゃん。超具だくさんの鍋がみるみるうちにできあがる。「塩ちゃんこ鍋!!!」相撲部屋で実際食べられているというこの鍋、さっぱりとした塩味に胡麻油のこうばしい香りが引き立つ。さらに自分の好みで辛い味噌などを加えることもできる。実にうまかった。
会場をテント内に移し、2次会の開始。酒の進みを除々にエスカレート。「山小屋にはいくらでも酒は売っているよ!大丈夫!」この時点でけんちゃんの焼酎は空になっていた。
朝を迎え、まずはトイレの状況確認。「山小屋の朝はトイレに行列ができて用を足すまでに相当時間がかかると思っておいたほうがいいよ。もし間に合わなかったら・・・大変な惨事になっちゃうからね。」石川さん情報は見事的中。空いているときを見計らっていかないとかなりの行列に巻き込まれてしまうところだった。


徳沢園に到着


けんちゃん1人
缶チューハイを買う


横尾大橋  これを渡ると涸沢方面


横尾山荘でカンパ〜イ!(2回目)


やっぱ明るいうちは外宴会でしょ♪


隊長が即席で作った「フキ味噌」  旨し!


けんちゃん作「塩ちゃんこ鍋」 絶品!

2日目の予定としては、横尾山荘裏手の登山道をひたすら登り蝶ヶ岳山頂を目指す。横尾山荘先の分岐で記念撮影をし、上り坂に取り付く。ほんの少し進んだところからかなりの急勾配となり、樹林帯のため雪も深くなる。一旦ザックを下ろし、アイゼンを装着する。みんなの準備ができたか確認していると、両方のアイゼンを並べてジーッと見つめたり、つけたアイゼンを引っ張って「ハアぁ」とため息をついているなんだか変な動きの男が・・・。
「まにちゃん(馬庭隊員)どうした?」佐藤
「ちょっと力入れると外れちゃうんだよねぇ。」馬庭
「左右反対なんじゃない?」佐藤
「あぁーそっかぁ。」馬庭・・・愛すべきキャラである。
しばらく進むと今度は顔や頭から滝汗をかいているではないか!
「まにちゃん、雪山では汗をかかないよう着るものの調節をしないと体が冷えて危ないんだよ。カッパ脱いじゃえば?」「そっかぁ」
せっかく着けたアイゼンも登山靴も脱ぎ、雪山でパンツ1枚になる人はあんまり居ないだろう。写真を楽しんでいただきたい。
ここが槍見台なのだろうか?視界が開け真っ青な空のもと正面には深く雪を被った穂高連峰。槍ヶ岳もそのシュッと尖った美しい姿を見せてくれた。稜線に出ると、さらに奥まで連なった山々をぐるりと一望することができ、「北アルプス最高!穂高最高!」そう叫びたくなる美しさであった・
「岳ごっこしようぜ!」と山岳コミック『岳』に良く使われる山を背景に横顔のアップという構図で写真撮影を楽しむ。


2日目の朝  蝶ヶ岳に向けて出発


アイゼンを左右逆に履いていた『まにちゃん♪』


大汗かいてカッパのズボンを脱ぐ『まにちゃん♪』


槍ヶ岳が見えた


樹林帯の急登が続く


やっと森林限界越えました


単独のおねいさんに撮ってもらいました


「岳ごっこしようぜ〜♪」といい年こいて盛り上がる   その1


その2


その3

12:30蝶ヶ岳ヒュッテ着。やはりビールで乾杯だけは欠かすわけにはいかない。
昼飯を済ませてからテントの設営に取り掛かる。風よけの壁が雪のブロックで築かれていたが、少々リフォームが必要であった。ヒュッテでスコップを借り、雪を掘るが硬くしまっていてなかなか進まない。
「そんなんじゃダメなんだよ!全然なってない。本職の技を見せてもらえ!」と隊長。
スコップを握るのはアイゼンが履けなかったまにちゃん(1級土木施工管理技師)である。2秒後まにちゃんはヒーローになった。足がスコップに吸い付き、体の一部のように自由自在に動き回る。1回に掘る量が桁違いだ。あっという間に設営を終え、テント内で休憩をとる。
16:00「少し小腹がすいたかぁ?」とけんちゃんがレーズンのパンにミモレットというチーズを挟んで「ミモレットサンド」を作ってくれたが、レーズンがチーズの良さを台無しにする残念な味だった(笑)
外に出てみると、相変わらずの絶景。テントサイトは色とりどりのテントが張られコントラストが美しい。「そうだ!日が沈むのを見ようよ!」ということで、それぞれ『岳ごっこ』など写真撮影を楽しむ。除々に気温も下がり手が痛くなってくる。「お酒、足りないよね?ちょっと買ってくるね。」と隊長とけんちゃんがヒュッテへ。待ちくたびれて凍えそうになっていたところへ到着したのはなんと熱燗ではないか!!体を温め、夕日をバックに記念撮影が無事終了する。テント内に戻り、宴会開始。オリジナルのお酒「蝶ヶ岳」が一人1本ずつ追加され、北アルプス最後の夜は遅くまで盛り上がった。


蝶ヶ岳のテン場  最高の天気だ!


蝶ヶ岳ヒュッテでカンパ〜イ!(3回目)


見よ!これが本職のスコップ捌きだ!


まにちゃんが初めてカッコよく見えたよ!


テントに入ってカンパ〜イ!(4回目)


残念な味  けんちゃん作「ミモレットサンド」


おでんだよ〜、山小屋で売ってるのより旨いよ!


まにちゃん作「煮込みハンバーグ」


サーモンもあるよ〜!


夕日に染まる穂高連峰


ずっと見てても飽きない(でも寒い)


再び『岳ごっこ』で盛り上がる


髪型が変・・・


ヒュッテで熱燗買ってきてカンパ〜イ!(5回目)


槍ヶ岳 いつか登りたいなぁ

最終日。パッキングを済ませ、蝶ヶ岳ヒュッテを後にする。今日も快晴!
長塀尾根を徳沢に向い歩く。樹林帯の中の下りだがかなりの急勾配で、膝がワナワナしてしまう。途中30人以上の団体さんに追いついてしまいペースダウンとなってしまったが、焦ることは無い。のんびり徳沢に到着。ビールでのどを潤す。
これで蝶ヶ岳周遊コースは終了となる。観光客で賑わう上高地を他の登山者たちと共に大きなザックを背負いながら歩く我々がいた。


3日目 夜明けの蝶ヶ岳ヒュッテ


各自お好みの朝食で


蝶ヶ岳山頂で記念撮影


「三歩」というより「団長!?」


今日もピーカン  下山日和だ!


北アルプス最高〜♪ また来るぞ〜!


観光客でごった返す河童橋


上高地に帰ってきやした〜!


帰りは松本から中央線普通列車に乗り込み、ひたすら埼玉を目指す。もちろんお酒を買うのは忘れなかった。車窓からの景色を楽しみながら、今回の旅を振り返る。たくさんの思い出を作ることができた記念すべき北アルプスデビューとなった。


松本のそば屋でカンパ〜イ!(6回目)


甲府駅でワイン買ってカンパ〜イ!(7回目)