報告 菊地 顕一




渓美隊の2010年が始まった。
ここ2年ほどはシーズン・オフという言葉も聞かなくなり、年がら年中活動するようになっている。
特に昨年は、源流シーズン中よりも本来シーズン・オフ中の遊びである山登りに重きが置かれ、やれ山靴かっただの、山の武器買っちゃっただの、メンバーそれぞれが盛り上がっていた。
そんな、方向性がイマイチ分からなくなってきた渓美隊であるが、まぁいいのである・・・楽しければ。
という訳で新春1発目の山行は「日光白根山」。雪山である。
日光白根山は標高2,578mの活火山で関東地方の最高峰であり、2,500m以上の山としては国内では最も北、最も東に位置し、国内では日光白根山より北もしくは東に、それより高い地点はない・・・とウィキペディアに書いてあった。
積雪期の登山ルートは金精道路の閉鎖や沢筋の雪崩などの理由から、日光湯元から外山尾根・前白根山を経由する外山コースか、丸沼高原スキー場からロープウェーで標高2,000mmでビューンと連れてってもらえる丸沼コースから登るのが一般的なようだ。雪山初心者1泊予定の我々は、「車のアクセスも良く、楽チンで人気のあるコースだからある程度のトレースも見込めるだろう。」ということで、後者の丸沼コースを行くことに決めた。
今回のメンバーは出向クラブ全2名のメンバーの内の1人、ハスキーボイスの伊藤ちゃんが参加。そして渓美隊は信さん(高橋隊長)、サトーくん(佐藤)、私の計4人である。
当日、川越を早朝5時に出発し、関越道を沼田で降りて丸沼高原スキー場を目指す。釣りの時などは前夜出発で車止めに先行者がいないかどうか気が気ではないが、今回は逆に先行者がいてくれたほうがトレースがあったりしてありがたい。山は逃げないのである・・・のんびりできるっていいなぁ♪
朝8時にスキー場に到着。さっきからシンシンと雪が降っている。8時30分からロープウェーが動き出すらしいが、外が雪のため面倒なのか「まぁ、急ぐこともないよな!」なんて言いながら、皆なかなか着替えようとしない。9時少し前に重い腰をやっと上げ、雪山装備に身を包むと不思議とテンションも上がってくる。
センターハウス2階のチケット売り場でロープウェーのチケット代(往復1,200円、ICカード保証金1,000円)を支払い、窓口のおねーちゃんに登山であることを告げると登山カードの記入を求められる。「気をつけて行ってきてくださいね♪」なんて笑顔で言われちゃった日には、平均年齢40歳オーバーのオジさん達は「安全第一・・・無事ここへ戻ってきて『ただいま!!』と彼女に笑顔で言おう。」と心に誓うのであった。
スキーヤー達に好奇の眼で見られながらも、どこか自慢気にロープウェーに乗り込む。ロープウェーの係員のおじさんが「昨日も2人入っていったけど、雪が多くて途中で撤退して帰ってきたよ。」と言っていた。果たして白根山山頂へは行けるのであろうか?まあ、無理せず行けるところまで行ってみよう。


雪山装備に身を包み、いざ出発!


チケット売り場で登山カードに記入


スキー場には不釣合いなデカザックの男(しかも変顔・・・)



ロープウェーで一気に標高2000mへ 快適、快適・・・

山麓から15分ほどで山頂駅に着いた。レストハウスを横目に進むと赤い鳥居があり、ここからが白根山の登山口となる。鳥居の先はキレイに除雪されていて「なーんだ楽勝じゃん!!」と思いきや、それも50mほど先の二荒山神社まで。参拝用に整備されていたようだ。我々が目指すべきその先は、ふっかふかの新雪でトレース跡らしき一筋の線が、かすかに残っているだけであった。
無事に戻ってこられるよう神社でお参りをし、ワカンを装着していざ出発。
伊藤ちゃん、私、サトーくん、信さんの順で歩き始めるが、のっけから膝上のラッセルで始まる。樹林帯の中の比較的平坦なルートと新雪がせめてもの救いだが、やはり疲れるものは疲れる。相変わらず降り続く雪の中、交替しながら黙々と進んでいく。
血ノ池地獄との分岐に着くと、無雪期には大したことないと思うのだが白根山方面への進路は急登となり、いままでうっすらとついていたトレース跡が無くなった。ロープウェーの係員のおじさんが言っていた先の入山者は、どうやらここで引き返したようだ。
真っ白な斜面にみんなで道を切り開いていく。腰までのラッセルが、斜度が強まるところでは胸までのラッセルとなり、「ラッセラー、ラッセラー!」という掛け声とともに、まるで「ラッセル祭り」が開かれているかのように声を出し、自分を奮い立たせ、雪を掻き分けながら一歩一歩進んでいく。多少斜度が弱まり背の高い針葉樹の中では、目印の赤テープを拾いながら進む。
ほどなくすると平坦な樹林帯に出た。わずかに頭を出した道標を見ると、どうやら「七色平」の分岐に着いたようだ。時計は12時を少し回っている。出発から約3時間。思いのほかラッセルに苦戦し、無雪期コースタイムの3倍の時間がかかってしまった。


レストハウス裏手からが登山口となる


ワカンを装着して突入だー!


最初は比較的平坦な道をラッセルしていく


新雪を掻き分けて進む




血の池地獄分岐からの急登が始まる トレース跡がなくなり、自ら道を切り開いていく


急勾配の中、だんだん雪が深くなってきた


「ラッセラー!!」の掛け声とともに自分を奮い立たせる


雪の中でじっと佇む「大日如来像」


七色平避難小屋の中で昼食をとりながら、これからの行動について話し合う。時間的にも今日中の山頂アタックは難しいということで七色平分岐付近にテントを設営後、明日のためにある程度の所までラッセルしてトレースを作っておいて、明朝、白根山山頂へアタックしようということになった。
分岐から少し離れた平地をみんなで踏み固めながらテント設営場所を決める。さらにはテン場から道を作り、少し離れた場所に大・小キジ撃ち場を確定する。購入したばかりのサトーくんのピッケルは、縦走時の杖がわりでもなく、滑落制動でもなく、悲しきかな「ウ○コ場の穴掘り」が初仕事であった。まさかブラックダイアモンドのCEOもロストアローの社長も、購入後いきなりこんな使われ方をされるとは夢にも思っていないだろう。
テントを設営している間も雪は降り続いている。信さんがテントに入り、あたたかい衣類に着替えたのを皮切りに、みんなゴソゴソと着替え出す。そう、この雪の中、一度テントの中に入ってしまったらもう外に出る気などしない。
「日光白根山敗退・・・渓美隊雪山2連敗・・・」の文字が脳裏をかすめるが、「これは勇気ある撤退だ!またいつかリベンジしよう!」と、テントの中は早くも「あした登る気などさらさらありません」的なムードに包まれる。


七色平避難小屋  屋根の雪の重みで潰れないかと心配


ところどころ石組みがくずれ隙間があいているが、意外と頑丈そうな作りだ


七色平分岐付近に戻りながらテン場適地を探す


よさげな場所みっけ!!


今夜の宴会場&寝床、設営完了〜♪


日光白根山敗退の瞬間

時計を見るとまだ13時30分である。まずは湯を沸かしてコーヒーでも飲んで温まろう。ビニール袋に詰められた降ったばかりの新雪は、バーナーにかけられたビリー缶の中で、呼び水とともにみるみるうちにゴミひとつないきれいな水へと変わっていった。カップにインスタントコーピーを入れ、熱々のお湯を注ぐ。「ゴクリ」とひと口飲むと、熱い液体が胃の中に染み渡り形がわかるようだ。ほっと一息ついた瞬間である。
しばし談笑が続くが、閉鎖された空間ではだんだん手持ちぶたさになってくる。「あー、早く酒呑みてー!」との私の声に、「こんな早い時間からやっちゃったら、すぐに酒なくなっちゃうでしょ!」と渓美隊の酒類管理責任者サトーくんが厳しい眼を光らせる。14時30分を少しまわった頃、なんと信さんが「そろそろ宴会の準備始めちゃう?」とトスを上げてくれた。その声に鋭く反応し、大賛成したのは言うまでもない。
「早い時間からのスタートだから少しずつツマミを出していこう。」ということになり、まずは信さんが「砂肝」を炒める。フライパンに油を引き、薄くスライスしたニンニクと一緒に炒め、塩コショウで味を整えたあと、仕上げにバターをどっさり投入。たちまちテント内は肉の匂いと煙が充満する。どうやら、前回の女峰山のホルモン焼と今回の砂肝で、ゴアのテントは目詰まりしてしまったようだ(笑) さあ、最初のツマミが出来た。もう我慢できない、缶ビールを開けて乾杯だ。
その後も北海道直送「塩ホルモン」と肉系が続きビールが進む。お次は私の出番、新作パスタ「真夜中のスパゲッティー。」会社の近所にあるイタリアンのお店の人気メニューをマネてみた物だ。白ワインをふんだんに使ったトマトベースのスープパスタなのだが、水をあまり使えないと思いソースは自宅で作ってきたので、温めながら早茹でパスタを投入するだけであっという間に出来上がる。「んじゃー、赤ワインでも呑みましょうか?」ということで、だんだん勢いがつき、いつもの調子になってくる。
バーナーの炎でテント内はとても暖かいせいか、珍しいことに早くも信さんが船を漕いでいる。伊藤ちゃんもさっきから眠そうだ。「も〜、寝ちゃだめだよ!鍋が食べられなくなっちゃうじゃん!」とサトーくんが作り始めたのはナント「あんこう鍋」。プリプリした大ぶりな切り身を惜しげもなくビリー缶に投入し、野菜をどっさり加えて味噌ベースで煮込む。山であんこう鍋なんて・・・贅沢極まりないんでないのー!?
「やっぱ鍋には焼酎のお湯割りだぁーねー。」なんて調子よく呑み続けていくうちに、身体も温まり酔いもまわってきた。そして20時30分には早々と全員撃沈となった。


時間は早めだがまずはカンパ〜イ!!


バツグンの旨さ「砂肝のバター炒め」


どんどんツマミがなくなり、ビールも空になっていく・・・


塩ホルモ〜ンヌ♪ 渓美隊は夏でも冬でもやっぱりオ・ニ・ク!!


雪山パスタ〜♪ 今回は早茹でペンネで代用


意外と好評!? 菊地家の味「ほうれんそうのナムル」



乾杯から1時間経ってないのに、こんなにツマミ食べちゃってどーすんの?


雪山キモチい〜!!


「早くしてくれ〜!」 傑作のキジ撃ち場(小)の順番待ち

 
珍しく信さんが船を漕ぐ・・・                    そして伊藤ちゃんも・・・


意外と元気な男がここに居た!


ほらー起きてー!鍋やるよー!


あんこう鍋完成


うひー!美味そう♪


みな復活して鍋を食す


「うへー、腹いっぱい」 だんだん眠くなってきたぁ


そしてみな撃沈・・・テントの通気口は凍りついていた

翌朝、辺りがすっかり明るくなった頃、みな起床。やはり山頂アタックをする気などは微塵もなかった。
外を覗いてみると、昨夜から降り続いている雪は30cmくらい積もったようだ。
朝食は伊藤ちゃんが地元名古屋の味、寿がきやの即席麺「台湾ラーメン」を作ってくれた。真っ赤なスープは「ピリ辛醤」というだけあって、ひと口スープをすするとまず喉にきて、食べ終わる頃には口の周りはヒリヒリ、口の中は麻痺というシロモノ。だが、辛いもの大好きの私は、この旨みと辛味に完全にハマってしまった。即席麺なのに・・・辛いけどスゴクうまい、寿がきやの「台湾ラーメン」。名古屋の食文化・・・恐るべし!!


翌朝、木々の間から白根山の頂きが見えた

 
寿がきやの「台湾ラーメン」と尾西のアルファ米で・・・


朝からガッツリ「ラーメンライス」

撤収にはさほど時間はかからず10時すぎにテン場を後にする。昨夜からの雪に、トレースが消えてしまってはいないかと心配であったが、うっすらと残っている。そう、「ラッセル祭り」で盛り上がったあとのトレースはそう簡単には消えるはずもなかった。
昨日、胸までのラッセルで苦労して切り開いた急登も、帰りは何てことなく順調に下っていく。途中スノーシューを履いたソロの方が登ってきたが、トレースは七色平までであることを知らせる。
その後もトレース跡を順調に進み、あっという間に二荒山神社に着いた。時計を見ると七色平を出発してから50分しか経っていなかった。ラッセルをするとしないとじゃ、こんなにも時間が違うものかと、雪山の厳しさと奥深さを知った。


快適なテン場に別れを惜しみつつ撤収開始


トレースがしっかり残っていて順調に進む


あっという間に二荒山神社に到着


無事の帰還を記念してパチリ

山頂レストハウスで暖をとった後(信さんと私はもちろん、下山を祝って「おビール」をいただいちゃいました)、我々だけ下りのロープウェーに乗り込む。
ロープウェーの中から雪化粧された山々を眺めながら誰かがつぶやく。
「白根山敗退・・・近々リベンジだな!こりゃ。」
我々が再びこの地を訪れる日も、そう遠くはないであろう・・・。そう、チケット売り場の彼女にもう一度逢うために・・・。