報告 ゲン




いままでいろいろなルート取りでこの沢の遡行・下降を繰り返してきた高橋隊長が決定した2010年のコースは「群馬県側から稜線を越え、小ゼン沢を下降して本流へ。本流で楽しんだ後は南ノ沢を詰めて、稜線登山道から出発地点へと戻る」というルートだ。
今回は2泊の日程だが、これなら本流ではマッタリとし、前後の歩きも程良く楽しむことができるだろう。
魚野川をホームグランドのように愛している渓美隊。恒例の8月釣行、はじまりはじまり。
8/12夜
当初入山予定だった13日は運悪く日本海側に台風到来。標高の高い魚野川源流に入るには危険があると判断し、一日遅らせてスタートすることに。

8/13夜
川越駅に集まったのは高橋隊長・馬庭さん・ゲンの3名。参加予定だった尾亦さんは、日程調整の結果残念ながら来られなくなってしまった。尾亦さんといえば昨年の早出川の時も急な発熱でご一緒できなかったのだ。乾杯直後からものすごいダッシュを見せるという伝説の飲みっぷりを早く拝んでみたいものだ。そんなわけで3人になってしまったメンバーだが、高速を飛ばして順調に車止めに着いたらまずは乾杯。何度も魚野川にきている2人は、明日から入る流域がいかに素晴らしいかを熱く語ってくれる。
いやー、もうこのまますぐにでも歩きだしたい気分!盛り上がりすぎてあやうくテン場用の酒にまで手をつけそうになったが、なんとかガマンして就寝。
8/14
5時過ぎにモゾモゾと起きだして準備開始。単独の2人が通り過ぎていく。隊長はさっそく情報収集。慣れた地元の方のようで、日帰りだとか。ゲートを開けてさっさと行ってしまった。われら3人はのんびりと準備を済ませ、まずは林道歩き。ウォーミングアップにちょうどいいぜと負け惜しみ。
稜線までの登山道は単調に高度を上げるタイプで緩急がナイ。例のごとく、行きのザックは酒や肉でズシリと重くぜんぜんペースが上がらナイ。おまけに猛暑続きの2010夏、標高1000mを越えようというのに暑くて暑くてたまらナイ。ナイナイづくしのダメ押しに、この道には水場が一か所もナイので体を冷やすこともできず、熱中症寸前。だんだんと気が遠くなり、我に返ると先を急ぐ隊長の背中は遥か先。そんなことでヒーヒーいわされっぱなしの3時間半後、なんとか稜線の登山道に合流。そんななか、手に持ったポリ袋をいつのまにかチタケで満タンにしていた自分を褒めてやりたい。
ここまでくればこっちのものと、しばし休憩。昼飯をパクつきながらも心はすでに本流の流れに・・・。「アソコを越えたら例のスポットをこう攻めて・・・ぐふふ」とかいいながら早くもニヤニヤ状態の2人。昨年、増水した下流部を歩いただけの自分にとっては今回の流域は未知の世界。想像(妄想?)はふくらむばかりである。
さて、稜線でニヤついているばかりではラチがあかないのでそろそろ行くべと、小ゼン沢の下降にとりかかる。地形図上のコルより手前に踏み跡があり、そこをたどるとすぐに水流があらわれた。キモチイー!冷たい流れに足を浸したとたんに元気になる3人。乾いた登山道歩きはやっぱり性に合わないと再確認する瞬間だ。枝沢をあわせてだんだんと太くなっていく流れは終始歩きやすく、快適この上なし。「天国への階段」をウキウキと下りていく。本流手前では朝お会いした日帰りの方とすれ違う。聞けば庄九郎沢あたりまで行って来たとか。素晴らしいスピードだ。ほどなくして、我らもようやく本流に降り立った。所要5時間。思えば渓美隊に参加するきっかけとなった「2009年8月・黒沢テン場の盃」から早1年。今年は渓美隊の一員としてここ魚野川へ戻ってくることとなり、感慨もひとしおである。


群馬県側から稜線を目指す ザックがズシリと重い


それでもしっかりチタケをゲットしちゃうのだ♪


景色の良い小ピークで一休み


ようやく稜線登山道に合流 ここから小ゼン沢を下る


天国のような小ゼン沢の源流部


ついに本流に到着〜

今日の予定は小ゼン沢出合上の快適なテン場。まずは荷物を投げ出して一服。本流で少々釣りを楽しんだら、お待ちかねの宴会だ。ひさしぶりの渓美隊宴会はやっぱりというかまたしてもというか、やたらと豪華なツマミ乱発であっという間にお腹いっぱい。たまに登場する「オクラとミョウガのオカカ合え」的なサッパリ系がうれしい。
怒涛のツマミ合戦が一段落する頃にはアルコールも程良く、いや、かなりまわってきて宴は大盛り上がりだ。今日の山越え、たくさんある魚野川支流、去年の増水騒動と喋りのツマミ?も尽きない。そうこうするうちに話はいつの間にか雪山の話題に。もともと沢に限らない活動をしてきた渓美隊は、昨年から雪山にまでフィールド(=宴会場)を広げ始めたのだ。自分は未経験だが、高橋隊長も馬庭さんもその魅力にすっかりとりつかれているらしい。

「もーねぇ〜、雪ばっかりで真っ白なんだよぉ、雪山って」
  あのー、それってあたりまえなんでは?
「テントの中でさぁ、鍋するのがさぁ、最高なのよ〜!」
  いやぁー、どっちかというと夜の街でオネーチャンと鍋の方が・・・
「こんどは雪洞キャンプやっちゃうぞぉ。雪洞でジャパン(馬庭さんはなぜか日本酒をこう呼ぶのだ)だぜ!うおぉぉ」
  うーん、なんかよくわからないけどこっちまでハイになってきたぞ。

なにしろみんな酔っ払っているのでいまいち説得力に欠けるものの、どうやら夢中になるほど楽しいらしいぞということは分かってきた。自分もそろそろ考えてみねばなるまい・・・。
さて、飲むほどにテンションは上がりいつまでも飲んでいたい気分だが、パラついてきた雨音を聞きながらシュラフに潜り込んだ。


竿を出すと早速・・・疲れもふっ飛びます


無事到着を祝ってカンパイ!


たまには嬉しいサッパリ系のツマミ


でもやっぱり渓美隊 ガッツリ系も欠かせない!

8/15
未明には時折雨脚が強まることもあったが明るくなるころにはすっかりあがり、快適な一日が予想される。昨夜はツマミばかりでご飯を食べていないこともあり、朝からしっかりと飯炊き&料理がスタート。馬庭さんは朝っぱらから男らしく豚ロースのソテーなどを焼いている。これでは飲みたい気分を抑えるのがたいへんだ!炊きたてのご飯と岩魚汁とともに美味しくいただいた。
また、今回の釣行では隊長の提案で昼飯はお弁当にしようということになっている。別パーティーを参考にしているとのことだが、行動中の時間節約にもなって良さそうだ。早速自分はお弁当のオカズ作りを願い出る。まずは昨日獲ったチタケを混ぜご飯用に油でよく炒め、醤油・砂糖・ちょいと一味を効かせて完成だ。味見をしてみる。んーなんかいつものチタケと違う感じだけど、まーいいや。次いくぞ、次ぎ。で取り掛かったのは鶏の唐揚げ。鍋で熱した油に鳥肉をジュワッと投入。と思ったら、あれれ?ジュワがないなぁ?火が弱いのかな??んっ?!うわ、なんか変なニオイがするぞ!うへ〜、この鳥肉、酸っぱいニオイがしてる。暑かったからいたんじゃったのかぁ・・・。と一人で騒いでしまったが、なんのことはない。鍋で熱していたのはサラダ油ではなく寿司酢だったのだ。同じ瓶に入っていたので間違えてしもうた。どーりでジュワっといかないわけだ!ということは・・・ヤベッ、もしかしてさっきのチタケも!こりゃ責任重大だ。料理はそこそこヤルつもりでいたが、自分の味見ってなんていい加減なんだ!
朝食を終えた2人におそるおそる試食してもらう。「んんー、意外と悪くないよ。こりゃチタケ寿司だな」優しい言葉に胸をなでおろしながらいそいそと弁当を詰め始めた。ここで隊長が取り出したのは・・・ジャジャーン、なんとわざわざオーダーして作ってもらったという漆塗りの井川メンパだ。ひとりだけ妙に絵になっていてかっちょいいことこの上ない。例のチタケ寿司の上に唐揚げ(酸っぱいヤツと普通のヤツ)、塩昆布、漬物などを乗せていく。みんないい歳したオヤジだが、なんだか楽しくておもわずキャッキャと騒いでしまう。
なんだかんだ楽しんでしまったので、やっぱりいつもの通りの遅立ち。「上のゴートー越えるまでは歩きだよー」と隊長から声がかかる。今日も天気はいいが、さすがにここは涼しい源流だ。うまい空気を吸いながら歩けばすぐに庄九郎沢出合。流れのど真ん中に、誰が置いたかまあるい大石が。印象的な眺めだ。続く庄九郎大滝は左岸ルンゼの安全なラインを選んで越える。あっちだこっちだといいながらルートファインディングするのが楽しい。スタスタと本流に戻ると、いよいよゴートーと呼ばれる巨岩帯の始まりだ。
部屋サイズ、時には家サイズの石(岩?)がゴロゴロする間を攀じ登ったりとび下りたり、まるでパズルを解くようだ。嗚呼、沢は楽しいなぁ。とはいえ、重い荷物のせいか脚にはこたえる場所だ。少々落差のある滝を巻くと、どうやらゴートーのエリアはここまでらしい。流れの脇でやれやれと荷を下ろす。
ここから先は、いよいよ釣り解禁。まずは高橋隊長と馬庭さんがテンカラを振りはじめた。どうやら反応は上々の模様。程良いテンポで魚野川らしい綺麗な岩魚があがりだした。自分もルアーをセットし、手頃な落ち込みにキャスト!あれ?出てこないぞ??おかしいな。次の淵はどうだ? むむ?あきらかにヤル気のない小僧が付いてくるだけだ。
どうやら今日はルアーはダメな日和らしい。源流で釣りをしていると、たまにそんなことがある。逆のパターンもごく稀にあるし。ま、こんな日は調子のいい釣りにすべてを譲り、のんびり見学するにかぎる。
相変わらずいい調子の2人は次々と岩魚をかけてはリリース。しかしよく見ていると、やはりいろいろなところで違いがある。木の葉の間や岩の奥のピンスポットを狙い澄ましてズバリと突く馬庭さん。当然魚も、ここぞというところでバッチリ飛び出してくる。見ていてじつに気持ちがいい。対して高橋隊長の釣りはというと、自分の印象でいえば「柔らかい釣り」といったところか。見逃しそうなポイントにフワリと優しく毛バリを振り込んでいく。打ち込むのではなく、置くような感じだ。自分の目では「え、そこ?」と思うようなところにも毛バリを振り込んで次々と魚を引き出している。女心、いや、魚心がよーくわかっているのだろう。うまい2人の釣りを見て、いろいろ勉強させていただいた。
今日のテン場、南ノ沢出合に近づくまでには自分も少々たのしませてもらい、大満足の一日となった。
さて、今宵のテン場は少々藪がかぶっているものの流れを前にした小さな平地で言うことなしのロケーション。明日は下山なので、今夜は「あるだけ飲み放題ナイト」。遅くまで盛り上がった。


2日目 ナメの美しい庄九郎沢出合


庄九郎大滝を高巻く


イワナは小ぶりが多かった


でもたまにこんなのが・・・今釣行最大サイズ


隊長自慢の井川メンパ  漆の光沢がタマラナイ


南ノ沢出合のテン場 狭そうに見えるがなかなかの居心地


馬庭作 「揚げずにとんカツ」で作ったイワナカツ


ゲン作 ビリーカンで作ったパエリア


ゲン作 イワナのカルパッチョ

8/16
さて最終日。なかなか朝が来ない。
いや、朝はきているのだがいつまでも起きない我々。あれだけ飲んだのだから当たり前だ。よっしゃ起きるぞ、と隊長に喝を入れられ、やっとシュラフから這い出した。酒の抜けきらない頭で、昨夜やっつけきれなかった大量の食材を料理しまくり、朝飯&またまた楽しいお弁当づくりだ。朝からフルコースを楽しみ、テン場を後にしたのは9時半。いくらなんでも遅すぎだが、まあしかたあるまい・・・。
今日のコースは、南ノ沢を詰めて登山道に出、5kmほど稜線を移動した後に一昨日登って来た道を下りるる、という予定。詰め次第だが、ざっと6時間といったところ。
登り始めた南ノ沢は傾斜も緩くとても歩きやすい。順調に高度を上げ、水もだんだんと減ってきた。稜線は近いようだ。地形図で見ると、いちばん大きい谷を詰めさえすればコルにでるようだ。この沢を使う人は多くないらしく、人の痕跡は少ない。「余計な赤テープなど無いのがいいっすね」なんて調子のいいことを言いながら登っていたら、だんだんとわかりにくい地形になってきた。相談の結果、いちばん水量が多く本流筋と思われる方へ進むことに。ややあって水流は無くなり、ネマガリがかぶってきた。この先は予定外に傾斜もきつくなっている。どうやら水量で判断したために正解ルートを外れたらしい。源頭近くで伏流している部分も多かったのだろう。とはいえ、このまま進めば出るのがコルではなくやや東の小ピークになるというだけで、たいした問題ではない。どっちみち登山道はそのピークを通るわけだし、予定の方にだって藪はあるさ。気合を入れて藪漕ぎスタートだ。隙間に体をねじ込み・掻き・・・・・・いやぁ、ひさしぶりだと堪えるなぁ。しかも、最初はまばらだったネマガリも、気が付けば足もつかないような密藪になってしまった。ピークまではまだ遠い。
一時間ほどの格闘の末、やっと小ピークに立つことができた。つらかったが、この程度なら時間のロスにもなっていないはずだ。後は登山道をスキップで移動するだけ!その登山道はこのピークにある。
はず。  なのだ・・・

あれ?  どこよ?

ないっすね、道。  おかしいな、痕跡すらないぞ・・・?

うーん、なんかいやな予感がする。想定外の場所に出てしまったのだろうか?かわるがわる木に登って見まわしてみるが、いまいちはっきりしない。予想していた小ピークでないとすると、ここはどこなんだ?なんとなく不安になってくる・・・。変な方角に降りてしまわぬようにしながら、密藪を掻き分けて道を探す。やはり見つからない。もと来た場所に戻ればたいした問題にならないのは分かっているが、できればここからなんとかしたい。結局、道が地形図と違うのではないかと考えて、予想した方角に標高差で50mだけ下ってみることにした。藪の薄いところを選ぶことはせず、ダメなら引き返せるようにコンパスだけを頼りに方角を決め、できるだけまっすぐに藪を進む。というか泳ぐ。10m、20m、30mまだない。ほんの2m先も見えない藪なので、この先に道があるのかもわからない。もうすぐ40m降りてしまうという時、捻じ込んだ体が急に藪から広い場所に転げ落ちた。
道だ!やったー、やっとでた。おもわず汗まみれのまま抱き合って、それから地面に倒れ込んだ。道は地形図とは全然違い、40mも低いところを通っていたのだ。
結局2時間も彷徨ってしまったが、ここまでくればもう安心。ゆっくりと弁当を食べる余裕もできた。大休止の後に歩く登山道は快適そのもの。まるで高速道路だ。ところどころ現れる登りに悪態などつきつつ、一昨日稜線に出た場所までやってきた。あとは2時間半の下りで車止めだ。朝の遅立ちがひびいていい時間になってしまったが、ヘッドランプをつけることもなく下山できたので上出来だろう。
楽しかった魚野川釣行は最終日もとびきりの濃さであった。天国のような本流で楽しんだ後はたっぷりの修行。いやはや、とことん楽しませてくれる沢だ。
今回は3人だったので、来年はもっと大勢で藪漕ぎましょう


最終日は「豪華イワナ弁当」


快適な遡行のはずだったのに・・・


詰めを誤り地獄の藪漕ぎ、そして木登り(修行かっ!)


登山道へ出てひと安心 弁当をパクつく


あの藪に比べれば登山道は高速道路だね♪


日没前に登山口に到着 今回も濃い釣行でした〜