報告 佐藤恵亮




2010年、TEAM八ヶ岳は結成された。と言っても、バリエーションルートの難所を次々とクリアしていこうというチームではない。というかそんなことは到底できない。
昨年のゴールデンウィークの雪山登山計画を立てていた私たちが、本やネットで調べているうちに自分たちの経験と実力を完全に見失い、とんでもない相談を石川さんに持ちかけたのが結成の理由だ。そう、あの時、赤薙山と日光白根山しか知らない私たちが計画に挙げたのが、北アルプス奥穂高岳・北穂高岳だった。
「石川さん、今度のゴールデンウィーク、奥穂・北穂行こうと思うんですけどどうですかね?」
「え!?ちょ、ちょっと待って!」必至に動揺を抑えようとする石川さんの姿。そして、しばらくの沈黙・・・。
「八ヶ岳に行ってからにしましょう!」
2010年11月。「TEAM八ヶ岳のメンバーは、アイゼン・グローブ必携。」隊長からの岩トレ案内メールにはその一言が付け加えられた。
岩と雪のミックス帯が多い八ヶ岳に行くなら、アイゼン・グローブでの岩登りに慣れておくことが必須条件ということで、石川さん指導のもと古賀志山での岩登りトレーニングを行う。
実際に岩に取り付いてみると「カシャーン、ガリガリ!」と足元の不安定さに加え、グローブを着けているために小さなホールドを掴めない不自由さを実感でき、当日への意識を高めることができた。
2011年1月、行き先が阿弥陀岳北陵ルートに決定。八ヶ岳の中では難易度の高くないバリエーションルートの一つというが、初心者の我々には結構ヤバそうな場所も・・・。事前学習を済ませ、当日を迎える。
1月7日(金)夜、川越に全員が集合し出発となる。ところが、出発早々石川さんの口から出た言葉が「天気、あんまり良くないね。八ヶ岳はマイナス20℃位にまで下がるみたい。あっ、それと気を付けてね、運転。美濃戸口から入ったところさぁ、結構大きい事故が起きるんだ。俺、何回も見ちゃってるんだよなぁ。」
ただでさえ緊張気味なのに・・・。
何とか、無事4時前に予定していた美濃戸の駐車場に到着。路面凍結への緊張から解放されるやいなや、「お疲れさん!飲もう」振り返ると、ワインの瓶を手にした石川さんの顔が暗闇から近づいてくるではないか!
マイナス20℃の世界に足を踏み入れる前に入山祝いを軽く済ませ、5時3分、円陣で気合を入れ出発となる。
美濃戸山荘前から階段を使い南沢コースへと入る。真っ白い息がヘッドライトに照らされ、キラキラと光る。しばらく歩いていると、私の前を歩いていた根本さん(ねもちゃん)のおしり辺りもキラキラいやテカテカ光り始めた。近づいてみるとザックの底と、おしり辺りになんと氷柱が・・・。ハイドレーションがこの寒さでうまく機能せず、水が漏れ出し凍りついたようだ。
沢沿いの道はしっかりしていて、とても快適に歩ける。歩いている時は体も温まるが、休憩となると一気に寒さを感じ、長くは休めない。
そうこうしている内に徐々に夜が明け始め、白銀の世界へと様子を変えていく。遠くには横岳の切り立った岩峰と青空が見え始める。

マイナス20℃近く ファイト一発で出発!!


空が白みはじめ、ますます元気に・・・


ウサギも跳ねる

9時を回ったころ、今日の泊り場である行者小屋に到着。まだ、時間が早いせいか他の登山者のテントはあまりない。小屋の近くのちょっと高台になった場所は、以前ケンちゃんが夏に単独で来た時にテント場として使い、快適だったそうだが、サラサラの雪が深く積もっていたため、今回は小屋から一番離れた山側の平らな場所を見つけテントの設営を開始した。
ところが「やばい、やばい!」とあわててザックの中から銀マットを引っ張り出し、他のメンバーと違う動きの男が・・・。ねもちゃんは、指先がキンキンに冷えてしまっていたようで、使い捨てカイロを足の裏に貼り「危なかったー!」とほっとした表情をみせた。
次に石川さんがニコニコしながら緑色の何かを手渡してくる。
「はい!佐藤君」
「なんですか?これ?」
「だって、雪山でツエルト泊してみたいって言ってたじゃん!」
「ツエルトかぁ、マイナス20℃かぁ。」
設営が完了し、時間を確認すると10時をわずかに回っていた。空は快晴!!
「明日、天気崩れるよね。山頂アタックは明日の予定だったけど、このまま今日行っちゃう?」
石川さんの提案に一同賛成。準備を整え、阿弥陀岳山頂を目指す。
赤岳へとつづく文三郎道方面へ歩きだし、途中から中沢岳方面へと進路を変えてゆく。しばらくそのまま進むと、石川さんが「これかな?」と指さす。うっすらとトレースが右の支稜へとつづいている。樹林帯を進むうちに徐々に頭上が開けてくるが、逆に傾斜がきつくなる。おかげで写真も少なくなる(笑)
ジャンクションピークで作戦会議。というのも、この時点で12時近くになっているうえ、ここから先は岩稜帯が続いているため、初心者同様の我々はザイルで確保しながらの登りとなる。それには時間的なゆとりがあまりないのだ。
「よし、行きましょう!慌てなくていいから確実に!」 石川リーダーの判断で山頂を目指すことになった。アッセンダーを使い、時間を短縮する。少し余裕ができ、カメラをいじっていると「ちゃんと確保してるのか!?」いつもと違うピリッとした石川さんの声。トップを交代しながら進んでゆく。
ピッケルと手で手前の雪を足元に落とし込み、膝で押し固めながら進むが雪がフワフワなのと、傾斜がきついため、なかなか進まない。
「うー!きついなー!」
「もう少しだよ!」
と石川さんの声。ピッケルを突き立て、一歩一歩進むと、カメラを手にした石川さんが「お疲れさん!なんか言いなよ。」動画で撮影していた。
「八ヶ岳最高!」左には中岳と主峰赤岳が、ずーっと向こうには富士山も見えている。
全員で、阿弥陀岳山頂に立ち握手を交わすことができた。さぁ、テントに入って宴会だーい!
結局、1日目に山頂アタックしてしまったので、翌朝天気が崩れる前に撤収することとなった。ちなみに、ツエルト体験をした感想ですが、一人であのスペースは広く使えてよかったが、寒い。サーモスの水筒の中身は口元付近が凍っていた。また、夜はツエルト内で雪が降り、シュラフの上は真っ白になっていた。改めて、ゴアテックスのエスパースがどれだけ素晴らしい物かを実感することができた。


足ごしらえをし、山頂に向けいざ出発


文三郎道・中岳沢分岐から横岳の岩稜帯を望む


すばらしい天候に石川リーダー、ねもっちゃんも思わずニッコリ


佐藤、菊地も主峰赤岳をバックに、何か「できる人」みたい・・・


阿弥陀北稜尾根末端に取り付く


前方にジャンクションピークが見える


ジャンクションピークへの急な登り


第一岩稜帯から赤岳を望む


阿弥陀岳頂上に向けどんどん進む


頂上はもうすぐだ!!


あとひと息!!


阿弥陀岳頂上到着〜


遠くに富士山も見える


ピッケルで赤岳を指し「岳ごっこ」


帰りは中岳沢を経て行者小屋へ


みんなの寝床の横にサトー君の寝床設営


さあ、楽しい宴会のスタートだー!


横にならないと目薬をさせない隊長  石川ちゃんお願いだからおヒザ貸してね♪


ねもっちゃん撃沈・・・


ツエルト内部  マイナス20℃の中バリバリ凍っている


さあ下山、撤収だ


無事下山し、美濃戸山荘前で記念撮影

ちなみに、予定を切り上げたからといって、のこのこと一泊で家に帰る我々ではない。そう、そのまま川越まで帰ってきて、さらにケンちゃんのアパートで宴会は続いたのであった。
その日のつまみは、行者小屋から冷凍された状態で帰還しおた「あんこう(日本いや世界初かも)鍋」だった。


御柱で「Choo Choo TRAIN」


「ロッジ菊地」へ場所を移しての宴会


山の中以上の盛り上がり!?


そして撃沈・・・


思わず「リンダリンダ」が飛び出す


そして宴会は午前3時すぎまで続いた・・・ご近所の皆様、大変申し訳ございませんでした・・・