報告 佐藤恵亮 |
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大深沢は、2009年の6月に下流部でまったり「温泉付き極楽釣行」で初めて訪れた沢で、その時は私と隊長でヤセノ沢まで釣りを楽しんだ。 そしてその2か月後の9月、仮戸沢下降~関東沢を稜線まで抜けるという沢旅を行った。(源流パトロール参照) その2回で残してしまったのが①ヤセノ沢~関東沢、②三俣~上流部である。 「よし、大深沢の完全遡行を成し遂げよう!」地図とにらめっこの末、以下のルートに決定する。 車止め⇒大深山荘⇒八瀬森山荘⇒ヤセノ沢下降⇒北ノ又詰め上がり⇒大深山荘・・・という大深沢上流部を満喫!?ぐるり周遊の旅の始まりだ。 |
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7月15日 長い長いドライブから解放されると、もうすっかり朝を迎えていた。 「雨だ~。サトーが来たからだ!」毎回繰り返すこの言葉。どれだけ心に深い傷を負うか・・・。中には「アメフラシ」とかいかにも害のある虫のように扱う人もいる。まったくまったく。 しかし、私は強く宣言したい。「去年は間違いなく雨男でした。でも今年は完全な晴れ男だ」と。 |
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共同装備を振り分け、「さあ出発」という時だ。なんだか見たこともないヘンテコな帽子をムチムチとかぶって、ニヤニヤしている男がこっちを見ているではないか。 「なにそれマニちゃん(笑)」「つばチョー短いけどどうなっちゃってんの?(笑)」「ウケ狙い?(笑)」とみんな。 「えー!?いやぁ店で見てマジでカッコイイと思って買ったんだけど・・・」大爆笑の出発となった。 |
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大深山荘までの沢の詰めは、前回も利用したルートなのでスムーズだ。1時間ほどで流れがなくなり、笹薮を抜けると登山道に出ることができる。2年ぶりの山荘は地震の影響を受けてはいなそうだ。ほっと胸をなでおろす。「最終日また戻ってくるからね。」そう呟きながら次のポイントである八瀬森山荘を目指す。 | ||
樹林帯は、倒木やぬかるみが多くかなり歩きにくい状況。足を滑らせ尻餅をつくことがやたら楽しくなってきて、「じゃあ、こけたらそのまま起き上がらないで『お願いしますっ!』って写真撮ってもらうことにしようぜ!」なんてちょっとお馬鹿な遊びを始める。 湿地帯に出るとそこにはニッコウキスゲが美しく一面に咲き乱れ、面白い形をした池塘がポッカリ。思わず「オーッ!!」と声を出してしまうほどだ。しばし、写真撮影となる。中でも傑作はバナナを食べているようにしか見えない「ニッコウキスゲを愛でる馬庭隆」だ。 |
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関東森を過ぎ、八瀬森山荘まであと僅かの何もない湿原の道でまたもやこの男・・・。 「わー!!!(ビチョ、ガシャー)」「エッ!?」先を歩いていた私が振り返ると、顔面下向き、両手を行儀よく上に挙げ、完全にヘッドスライディングの状態でマニちゃんが倒れている。道の真ん中にできたぬかるみにズッポリはまったのだ。しかし、それどころではない。黒くでかい何かが飛んでくるではないか!ヒールキックでぬかるみの泥を飛ばしているのだ。 |
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八瀬森山荘で早めの昼食を済ませ、先を急ぐ。慎重に地形図と周囲の状況を見比べ、ヤセノ沢の源頭部を発見、12:40下降を開始する。本流出合を目指し下るだけだ。それがどれだけ辛いかなんて考えもしなかったが・・・。 チョロチョロの沢も、だんだん水量が増えてくる。小滝や、ナメ床など、初めのうちは渓相の変化を楽しむ余裕もあった。会話もい弾んでいた。しかし、目印としている支沢がなかなか出てこない。途中何度がザックをおろし地形図を確認するが、ザックを背負いなおす度に重さが増したように肩に食い込む。会話もほとんど無くなり、黙々と歩く・歩く・歩く。全員が限界を感じた頃、「出合だ!そこがテン場だよ!」「やったー(涙)」時計はもうすぐ17:00になろうとしていた。 ヤセノ沢下降だけで4時間。1日目全行動時間10時間30分がやっと終わった。イワナは無いが、豪勢なつまみオンパレードの宴会で盛り上がり、早めの就寝。 |
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「ツバみじかっ!」 出発前に笑いを振りまくマニちゃん 雨の中アプローチの沢を詰める アメフラシの呪いか・・・ バナナを食べるゴリラ、じゃなくて「ニッコウキスゲを愛でる馬庭隆」です ズルズル登山道スリップ4連発 その① その② その③ その④ マニちゃんはヘッドスライディング 八瀬森 この先のコルから下降する ヤセノ沢下降開始 重たいザック、長い登山道歩き、降り続く雨・・・本流出合は遠い 10時間歩いて30kg(ワイン3ℓ入り)を背負うとこんな顔になります 長い初日を終え、2年ぶりの大深沢に乾杯! ガッツリ食って明日に備えるのだ |
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7月16日 2日目は、三俣のテン場を目指す。少し歩くと通称「ダルマ岩」に到着、記念撮影となる。みんなでおかしなポーズをとっているが、これはこの釣行のかなり早い段階(湿原を歩いているあたり)からマニちゃんが一人で勝手にやっていたポーズで、アップにしてみると表情までふざけているときた。何枚もの写真に写っていたことが昨夜の宴会中に判明し、渓美隊でのブームとなる。しばらくは続く予感が・・・。 そんなマニちゃんが今日1回だけマジになった。ツルンツルンの岩を微妙なバランスとフリクションで越えなければ急な流れの中にドボーンッという一幕だ。先に行ったマニちゃんが体をのけ反らせてスタンスを探している。 「マニちゃんこっち向いていつもの変顔やってよー。」とカメラを向ける私。 「今は無理!」 えーーーっ!マニちゃんに限ってはそんなリアクション無いと思ってたのにーっ! 昨日は完全に失っていた心の余裕がよみがえっていた。渓相を楽しみながらしばらく歩き、大きめの滝を越えたところから竿を出しはじめる。今年の私はテンカラを上達したいという強い思いがあったので、真剣に振った。おかげで釣りの写真があまりとれていないのが残念なのだが、楽しく釣りをすることができた。 |
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釣りをしている最中、先頭を歩いている私を誰かがヒソヒソ声で呼び止める。「サトー君、サトー君!」ふと振り返ると、進行方向を指差してケンちゃんが「クマ!」。全員が息をひそめた状況だ。私が対岸を見たときには、すでにクマは藪の中へと逃げてしまっていた。とは言え、ほんの3、40メートル離れていただけ。まだ、すぐそこの藪の木がユサユサと揺れているのだ。直接みることはなかったが、ちょっとビビッた。 関東沢の出合を過ぎ、ナイアガラの滝に到着。前回同様、写真撮影会を楽しむ。特に高橋隊長のカメラでは面白写真がたくさん撮れた(はず?)。 前回の下降時に通過した滝の中央部は大きく崩れ微妙な状態だったので、左岸側を登った。滝を越えると、ほどなく今日の泊り場である三俣に到着となる。重い荷をおろし、タープを張る。昨日と違って時間も体力もまだまだある。というわけで、北ノ又沢と東ノ又沢に分かれもう少々釣りを楽しむ。 2日目の夜も盛大に宴会開始。イワナ寿司もいただくことができた。 |
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2日目は本流遡行 ダルマ岩でマニちゃんポーズ! ハイハイ進んで・・・ あとでザックを引っ張ったりなんかする なんでもありの遡行 ツルツルのハング下を通過するんだけど・・・ 次はマニちゃん、アレ?戻ったぞ(笑) 「今は無理!」変顔リクエストにも余裕なし 今日は天気もよくテンション上がりっぱなし! 滝も登っちゃうよ~! テンカラ竿を振りながら遡行する 懐かしのナイアガラの滝が見えてきた 滝下で釣った良型 テン場に荷を降ろし、上流部を探釣 イワナは相変わらず濃いが、やはり型はイマイチ 仮戸沢の快適なテン場 いつものように爆笑の宴会が始まる 菊地作 イワナとケッパーのオイルパスタ 残りナスのピィッツァ風 大深寿司開店~! |
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7月17日 今日は、お花畑が広がる北ノ又の源頭を抜け、なだらかなところをルンルンで歩いていると、「あっ、あそこに大深山荘が見えるよ!到着だね。」というのが1日のイメージだった。しかし現実はそんなに甘くはなかった。 7:30。のんびりと弁当を詰める。「今日は距離も短いし、泊りは小屋だからあわてることもないね。」こんな感じのスタートだ。天気も最高。気分も上々だ。 しかし、荷物が一向に軽くならない。あっ、そういえば俺、米一粒も出してないじゃん!ビールも焼酎もほとんど減ってないじゃん!この3日間ただひたすら背負って沢の中を歩いてきたけど、ついに今日、1日目に通り過ぎた車止めから1時間の大深山荘で消費されるんだなぁ~。 |
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テン場にお別れをし、北ノ又遡行開始となる。前回沢登りの方に「北ノ又はでっかいイワナいっぱい泳いでましたよ。」と聞かされていたので、ワクワクしながら竿を振る。みんなで順番に楽しい釣りができる。ほとんどが7、8寸くらいのサイズだが、腹の赤い美しいイワナだ。 沢は細くなり、階段状に高度を上げていく。放流のためにキープしたイワナを入れた魚篭はかなり重く、交代しながら運ぶ。急に開けたと思うと、草原を流れる小川のような風景になる。「お花畑だ!」イメージ通りのお花畑が広がり、少女のような気分に浸るおじさん4人。しばらくのんびり癒される。さて、ここでイワナたちともお別れだ。14:30源頭放流する。 |
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ここからは、左方向に進路をとっていけばいいはずなんだが・・・。あれ?笹がずいぶん深い?うわーっ!完全に藪漕ぎだよ。 先頭の私が両手で笹をかき分け、膝から体をねじ込みながら必死に道を切り開く。後ろからコンパスで方向確認しながら隊長が「右、左」と指示を出す。いいコンビネーションではないか。 しかし、徐々に前に進まなくなる。疲れているのか?笹にはじき返されながらも無理矢理に体をねじ込み前に進む。それにしても進まない。ふと後ろを振り返って私は失神しそうになった。な!なんと!私のすご後ろを歩いていたマニちゃんが、両手で私のザックにがっしりしがみついているではないか!! 「プチン!」久しぶりに本気でキレた。「トップがどれだけ大変か、次はマニちゃん先頭ね!」と交代するが、代わった途端さっぱり進まずあっさり敗退。なかなか登山道が見えてこない。「もうちょっと行ってみよう。」先頭を交代しながら進むがなかなか進まない。顔の周辺を蚊だかブヨだかがブンブン飛び回り、不快極まりない。 「じゃあ、次俺が行くよ。」隊長が先頭を行く。誰よりも早く、誰よりも力強く、さすが隊長だ、頼りになる。かなり長い時間先頭を歩き「じゃあそろそろ誰か交代してくれる?」と言ったとき、人間の本性を見た。つまり「人は簡単に冷酷になれる。」ということだ。 全員が下を向き、誰も、何も口を開かない。う~ん、冷たい。「聞こえてるだろ!!」と言いたいところだっただろうに、隊長の言葉は「もう少し行ってみるか。」だった。あとで振り返った時に、「あの時は、ひどいなあと思ったよ。」と笑って言っていた隊長はやっぱり大人だなあと思った。 |
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17:34。「出たー!登山道に出たぞ!」 まるまる3時間藪の中を彷徨い、クッタクタのヘトヘト。その場に座り込んでしまった。 「あー、よかった。お疲れさん!」とお互いの健闘を讃えあい握手を交わす。「あれ、隊長。カメラは?」「えっ!!やばい。ない。」「あー、やっちまった。この藪の中じゃ2度と見つからないなー。面白い写真いっぱいだったのに・・・あきらめるしかないな(涙)」 |
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長い旅が終わった。予定通り大深沢を詰め上がることができ、3日間をフルに遊びつくした。人間としての優しさを失いかけたり、カメラを失ったり・・・ | ||
3日間持ち歩いたたっぷりのキャベツを使ったもんじゃ焼きをつまみながら誰かが言った。 「ヤセノ沢下降も、今日の藪こぎもまた修行でしたね。」 「いや、違うよ。苦行だよ、苦行!」 「そう言えば、ここ数年やたらと藪こぎしてるよな。」 「それでも懲りずに毎回こんなことしてるんだから、俺たちドMだよ!」 「間違いない!完全にドMだね!」 ドM軍団は苦行を喜びとし、今後も沢を彷徨い続けるだろう。 |
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3日目の豪華お弁当 北ノ又沢を釣る 念のため一箇所ロープを出す 大物は出ないがイワナは濃い 気持ちよく登れる滝が多い 一気に高度を上げると・・・ 源頭らしくなってくる 持ち上げたイワナを放流 「元気で育てよ~!」 天国のようなお花畑を満喫 このあとルートを間違えて地獄に突入 藪漕ぎ開始! 予定は30分だったんだけど・・・ 何と3時間! 「やっと登山道に出た~!」 木道歩きも足取りが重いドM軍団 大深山荘で乾杯! さすがに疲れたj表情 最終日も豪華に まずは肉じゃが 続いて酢豚 そしてキャベツたっぷりのもんじゃ焼き! 結局遅くまで盛り上がっちゃうドM軍団 キレイな小屋で朝食タイム 車止めに到着 マニちゃんポーズで締めっ! |
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