報告 高橋信博



渓美隊2012年初の源流行は朝日連峰の沢に決定!
の、はずだったのだが今年の梅雨は未だに明けず、この連休も雨予報。出発当日ギリギリの判断により、登山道でアプローチできる大石川西俣に転戦とした(最近このパターンが多いような・・・)。ゲンちゃんによる直前情報では、大熊小屋手前の吊り橋が壊れて登山禁止になっているらしい。まあ一般登山者ならともかく我々の装備なら大増水でもしない限り問題ないだろう。雨対策に焚火宴会用のポリシートも準備して、3日間目一杯楽しむぞ~!と、この時はまだ鼻息の荒い5人であった。
でもまさか、あんな苦行が待っているとは・・・。

7月13日  ~ トックンその1 ~
大石ダムの駐車場に到着し、一杯やっている間にすっかり明るくなってしまった。ほろ酔い気分で西俣沿いの登山道を歩き始める。イズグチ沢を渡る頃にはすっかり酔いも覚め絶好調!と思いきや、けんちゃん(菊地)に異変が・・・珍しくバテているようだ。
冬の間からほとんど山を歩いていないにもかかわらず、けんちゃんのザックはワイン3リッター、焼酎1リッター、その他大量の食材でパンパンに膨らんでいるのだから無理はない。時折強い雨が降り出し、徐々にペースを落とすけんちゃん。登山道はスノ沢を越えタキブ沢、セガイ沢まで段々と気の抜けない道になってくる。セガイ沢出合で緊急会議。
ここから大熊小屋まで更に道が悪化することと、けんちゃんの気分転換を兼ねて、沢通しで行ってみることにする。降り立った本流は開けていて、少し水量が多いな~程度の印象だった。だがしばらく進むと両岸は狭まり流れは圧縮され、激流のゴルジュ帯に変貌していた。やはりまだ雪シロが終わってなかったのだ。ここで引き返せばよかったのだが、よせばいいのに渓美隊ドM魂(ドエムダマシイ)に火が着いてしまった。ドMパワー全開で流れに逆らって進む。「なんのトックンですか、こりゃ~!?」「仮想・笠堀大川じゃ~!」なんて感じで。
だが1時間ほど遡ったところでドM軍団の行く手を阻む白い悪魔が・・・。沢が左に大きく曲がる地点にスノーブリッジが現れ、ここで再び緊急会議。出合からここまでかかった時間、地図上で同じ様な屈曲点が数箇所あることから今後更に険悪な雪渓が出てくるだろう。おそらくこの先もずっとゴルジュで、登山道に上がるのは難しいと判断し遡行を断念。セガイ沢出合まで戻ることにした。気が付けば皆クチビルは紫色、寒さに震えが止まらない状態だった。安全を確保しながら慎重に下る。よくまあ遡ってきたものだと感心してしまうほどの激流、時給0円の超重労働アルバイトだった。
再び登山道に取り付くと今度は暑さにヒイヒイ言いながら大熊小屋を目指す。小屋手前まで来ると情報通り吊り橋は壊れていた。川床にはなんとか降りられたが、雪シロと雨で増水した流れを渡るのは容易ではなかった。ロープとテープを連結して本日大活躍のまにちゃんがトップを切って無事渡渉を終えた。
大熊沢のテン場についたのは夕方。初日にして8割方体力を使い果たしてしまった。


大石ダムからの登山道を行く


セガイ沢が近づくと道幅も狭く草も刈ってないので歩きにくい


セガイ沢出合から本流に下りる  最初はこんなんだったけど・・・


段々川幅が狭まってきた・・・こんなことやら


こんなことしたりしながら


ドエムダマシイゼンカイッス!


予定外のトックンで、大熊小屋に着いたらもうヘトヘト


焚火宴会用タープを張る  雨対策はバッチリだ


今日はトックンお疲れちゃ~ん!


これがけんちゃんの3リッターワインだ!

7月14日  ~ まったり ~
朝から雨は降ったり止んだり。朝食後みんなで本流まで下り竿を出すと、すぐに数匹のイワナがヒット。すぐに滝が現れるが、その先からハンパじゃない冷気が伝わってくる。早くも雪渓、しかもかなりの規模だろう。ここで上流を諦め一旦テン場に戻って作戦会議。佐藤・馬庭・ゲンの若手組は大熊小屋まで戻って本流を釣り、高橋・菊地の年長組は大熊沢に入渓することにする。大熊沢の吊橋で3人と別れ、早速釣り開始。
渓相は申し分ないが水量が多い。アタリのないまますぐに滝となる。滝壺を探って首を傾けながら後ろを見ると、「巻きはこっちみたいですね~。」とけんちゃんが左岸上方を指差す。竿を仕舞ってけんちゃんのところまで戻るが、何だかテンション低めでその場を動こうとしない。
「結構大きく巻くようですね・・・せっかく巻いても釣れなかったら疲れますよねぇ・・・。」
「そうだな~、この水量はテンカラには厳しいかもね。」
「・・・・・」
「まったりしちゃう~(ニヤリ)?」
「まったりしちゃいますか~(ニヤリ)!」
という訳で入渓からわずか10分でUターン。テン場に戻ってワインと焼酎をチビチビとやりながらダラダラと過ごすのであった。「おっ、もう昼だな。弁当食って昼寝しよ~っと!」
何のために昨日あんなに苦労してここまで来たのか、なぁんにも考えていないダメダメな2人であった・・・。
佐藤達の話し声で目を覚ます。まずまずの釣りができ、昨日みたいな「トックン」もなかったようだ。夜も雨が降ったり止んだりだったが、焚火用タープのおかげで快適な宴会ができた。明日はいよいよ下山だ。


本流を釣った若手組  まずまずの釣果


入渓10分で納竿  ダメダメな年長組


全員揃ったところでカンパイ!


佐藤の自家製ピクルスを刻んで


色鮮やかなゲンちゃんの料理


コゴミの塩こん部長和え


ゲンちゃん持参のグレープフルーツ


ソオサワーイエムシーエイッ♪  今日も歌で盛り上がる


チャイナの凶悪蒸留酒「汾酒」を呑むとこうなる! メンバー5連発 (カーソルを当てたり外したりして遊んでね♪)


その2 サトー隊員


その3 まにわ隊員


その4 のぶ隊長


その5 ゲン隊員

7月15日  ~ トックンその2 ~
朝食の準備をしていると突然のどしゃ降り。米を研いでいた佐藤があっという間にずぶ濡れになった。急いで食事を済ませ荷物を片付けていると、沢は見る見るうちに濁流と化した。とりあえず壊れた吊り橋まで行って対岸に渡る方法を模索する。懸垂下降で下りて渡渉という手もあるが、濁流のため下降点の深ささえわからない。壊れた吊橋を渡ることも検討したが、手摺りのワイヤーは片側が落ちてしまい、橋はひっくり返って幅は10センチほどしかない。対岸寄りの2メートルほどは垂れ下がった橋が支点に向かって登りになっていて、ワイヤーが橋から離れてしまっている。しかもこの大雨である。気合いで渡るのは危険が多すぎる。ついに出した結論は、引き返して大熊尾根の登山道を朳差岳(えぶりさしだけ)避難小屋まで登るというものだった。稜線に出れば携帯も通じて家族に停滞の連絡もできるだろう。
初日のトックンの疲れも残る体に鞭打って大熊尾根に取り付く。朳差岳までは標高差1,200メートルもあり、そのほとんどが急登だった。またもや今日もトックンとなってしまった。途中の尾根から見える大熊沢の源流部は雪渓で埋まっていた。まだ当分雪シロは終わらないのではないだろうか。6時間近くかけて避難小屋に到着した時には皆グッタリ。
1階には2人組とソロの女性がいて、我々の行程を聞いて驚いていた。もう1人登って来るかもしれないということなので2階に上がる。そこには若いカップルが一組。ロマンチックな飯豊登山に突然ケモノ臭いオッサンが5人も乱入していまい、ちょっと申し訳ない気もしたが、2人とも気持ちのよい若者だった。女の子に登山地図を借りて明日の下山ルートを確認する。大石ダムまでのコースタイムは7時間強。しかも今日登って来た分を今度は一気に下るようだ。
明日もまたまたトックンいなりそうな予感・・・。
その夜は久しぶりの『酒類管理規制』を発令。夕食は余った乾き物のツマミのみ。酒類は水で割り、おかわりはシェラカップで200ccずつ計って平等に分け合う。ひもじくも楽しい宴会。皆疲れていたので8時半頃にはいい具合に酔っ払って就寝。


夜おバカなことやってると翌朝増水するのは気のせいだろうか?


壊れた橋まで戻って作戦会議


大熊尾根から朳差岳避難小屋を目指す


標高差1,200メートル!ほとんど急登でウンザリ


大熊沢源流部は雪渓で埋まっていた


なんとか避難小屋に到着


やっぱ登山禁止になってたのね


酒は平等にシェラカップで計る  酒類管理責任者・佐藤の厳しい眼差し


1日停滞しちゃったけど楽しかったね

7月16日  ~ トックンその3 ~
朝起きて外に出ると飯豊連峰の絶景が広がっていた。昨日頑張ったご褒美だね、と盛り上がる。朝食はまにちゃんが残していたパンを少しずつ食べ、3合のご飯を5人で分け弁当箱に詰める。昨日汲んでおいた水も分け合う。
小屋を出発する登山者たちと挨拶を交わし、彼らとは逆方向に進路をとる。絶景を楽しみながらの快適な登山道。だがそれも前朳差岳までで、そこからは「激下り」となる。疲れきった足にこれは辛い。しかも高度が下がるほどに気温が上がり、真夏の暑さになってきた。水は残り少ない。大石川東俣を渡る橋で水が取れればと思ったが、橋は数十メートルの高さで川床に下りることは叶わず、ゴンゴンの水流を指をくわえて眺めるのみ。昼食のあとはいよいよ水が底を付き、次の橋で水が取れなければ熱中症になってしまいそうだ。やっとの思いでたどり着いた次の橋から河原に下り、腹が膨らむほど水を飲んだ。
ここからは林道となり、やがて舗装道路となる。昨日までがウソのような猛暑、灼けたアスファルトが残り少ない体力を奪う。ダムが見えてからも長い湖岸道が続き、ボロボロになってようやく車にたどり着いた。


4日目  待望の晴天


朳差岳山頂は小屋の目の前なのだ


飯豊はいいで~♪


飯豊の景色を満喫しながら下山開始


前朳差岳への登り  この後オニ下りが始まる


熱中症寸前で沢に駆け下り、腹一杯水を飲む


猛暑の中、大石ダムに帰還  もう歩かなくていいぞ~!

疲れた・・・耐寒訓練、ボッカ訓練、そして耐熱訓練を一気にやったような、まさに「トックン」、忘れられない3日間+1日となった。