報告 ゲン



2014の渓流シーズンも大詰め、9月の連休はどこへ行こうか〜という相談の結果、今年最後の源流行として隊長が決定したのは八久和川。そう、でっかい谷に野太い川が滔々と流れ、大淵・大釜には潜水艦と呼ばれるアレが棲んでいるという噂のあの ヤ・ク・ワ だ!
長い川なのでいろいろなルートが考えられるが、今回は大井沢から稜線を超えて小国沢を下降し、中流部に出てみようということになった。金曜夜、メンバー5人が緊張と期待の入り混じった表情で集合し、400km先をめざした。

初日】

八久和での行程や天候の予想などで盛り上がりつつドライブし、ようやく辿り着いた大井沢登山口。すでに朝の4時をまわっている。残念ながら入山祝いの乾杯はお預けにし、早速装備を整える。
ふと隣を見ると、早目に準備を終えたマニちゃんが出発前の栄養補給とばかりにバナナをモリモリ食べている。真っ黒に日焼けした現場監督である彼には、面白いくらいバナナが似合う。働く男ってかんじで頼もしいなぁ・・と眺めていると隊長から鋭い注意が。

「バナナを食べると脚が攣りやすくなるぞっ!」

え!マジですか?半信半疑のマニちゃんが二本目のバナナを平らげるのを待って、5時過ぎに登山道を歩きだした。いよいよ、渓美隊の八久和川挑戦がスタートした。

ひさびさの3泊山行とあって、どのザックもパンパンにふくれあがっている。後ろから見ると、まるで脚の生えたザックが歩いているようにしか見えず笑ってしまう。これから800m以上の山越えだというのに大丈夫なのだろうか?若干の不安を感じるが、最初の内は登山道も良く整備されて快適そのもの。さらに、9月末の早朝とくれば山の空気はひんやりと澄みわたり気持ちよいことこの上ない。けっして早くはないけれど、そこそこのペースで進むザック人間たち。

このぶんなら涼しいうちに稜線越えられそうだね、と話しながらあるいていると「ウッ!」とか「ハァッ!」とか変な声が聞こえはじめた。なんとマニちゃん、本当に脚が攣りはじめてしまったらしい!まだ1時間も歩いてないのにこりゃ困ったと集まってみると、真っ黒に日焼けした頼もしい漢だったはずのマニちゃんが、土気色のダメ人間になってしまっている。なんてこった!とりあえずペースを落とし、励まし合いながら進んでいくことにした。

日が高くなると同時に気温もどんどん上がり体力を奪い始めた。「ハァッ!」のペースもますます上がり、稜線はまだはるか遠い。撤退の2文字が皆の頭に浮かび始めた。いや、入渓どころか山越えの手前で引き返しては、撤退よりも早退、あるいは未遂というべきだろう。下降点の小ピークにほうほうのていでたどりついたのは出発から5時間後。沢の下降を始めてしまったら引き返せないので、とりあえず大休止で様子を見る。
(ちなみに「ほうほうのてい」は漢字で書くと「這う這うの体」となるらしい。こんなにピッタリな言葉もめったにないだろう)

ピークからルーファンしている間にしっかり休んだマニちゃん、なんとか復調してきたようだ。よかったよかった!!さあ、いよいよ八久和川本流に向けて小国沢の下降だ。皆で気合を入れ直し、猛烈な藪に突入!

ここの藪はネマガリではなく、いろいろな種類の灌木がからみあっている。最初は腰までだったが、胸まで、頭までとしだいに深くなり、ついには脚が地面に着かないほどの密藪になり、数メートル先の仲間すら見失いそうな状況だ。最初は冗談を言い合っていたメンバーもだんだんと無口になってきた。巨大なザックが引掛かって思う方向に進めず、気が付くと楽そうな方へと進路が変わってしまう。こんな藪の中ではぐれては大変だ。全員で声を掛け合いながら進む。

2時間ちかい藪漕ぎののち、ようやく源流らしい沢型に降り立った。少し下って水流が見えはじめたところで昼食休憩をとる。やれやれ、これで一安心!と思いたいところだが、実はビバーク予定の八久和川本流出合まではこの沢を6kmも下降しなければならないのだ。あきらかに大幅遅れのペースである。慌てておにぎりを飲み込み、先を急ぐ。

はじめのうちは沢も階段状で歩きやすかったが、水量が増えるとともに段差が大きくなってきた。しだいにロープを出さねばならない場所が増え、さらには48m程の懸垂下降を繰り返すようになった。支点が取りにくかったり、釜の中に降りねばならなかったりと難易度もだんだん上がってくるので、一回ごとにけっこうな手間がかかってしまう。いかん、陽がだんだんと傾き、沢の中も暗くなってきたぞ!

このペースでテン場にたどりつけるのだろうかという不安が大きく育ち始めたころ、一気に沢幅が狭くなった所に悪場が現れた。ほんの2m程の滝だが、両岸のスラブが切り立っていて懸垂下降はできそうもない。巻き下るにしても、かなりの大高巻きになりそうだ。途中で日が暮れてしまうのは間違いない。しかたがない、意を決して一人づつ釜に飛び込むことにする。

といっても、落ち口からいきなり飛びこんでは水流に巻かれてしまう。そこで、落ち込みを超えたところまでは両岸の岩に手足を突っ張って移動し、そこから釜へジャンプ!恐怖と緊張に、度胸とチームワークで挑む。沢をやっててよかった!と実感できる瞬間だ。

ようやく難所をこなし、日暮れと同時に本流出合にザックをおろす。予定のテン場に先行者が入っているという予想外の事態もあったが、この際そんなことはどうでもいい。出発して13時間、みんなよく頑張った。バナナの祟り(?)で苦労したマニちゃんも安堵の表情だ!よかったよかった!

到着の勢いでなんとかタープを張り終えると、もう着の身着のままで倒れてしまいたいくらい疲れはてていた。しかし、燃料を補給しなければ体がもたない。今日はイワナはないが、肉と酒なら売るほどある。乾杯の後は、焚火なしの寒さも吹き飛ばす大宴会に突入。そしてスピーディーに撃沈(笑)


紫ナデへの登山道を行く


バナナを食ったマニキが両足を攣り、早々にペースダウン


紫ナデまでなんと1.5時間オーバー


下降を開始するも、今度はヤブに苦しめられる


ようやく沢に下りたが、先はまだまだ長い


懸垂と泳ぎの連続 日も当たらず寒さに震えながらの辛い下降だった


懸垂で下りて・・・


そのまま泳ぐ


再び懸垂


突っ張りでギリギリまで行って・・・


飛び込む!


日没前にようやく本流着  出合いのテン場には先客がいた


とりあえず無事に着いた、ということで「カンパーイ!!」


ガッツリ肉食ってパワーを補充しなくちゃ




決してよい寝場所じゃなかったけど


一晩暮せば立派は我が家♪

【2日目】

起きるぞー という声が遠くで聞こえたような気がする
でも体が反応してくれない・・
うぅぅ、眠い・・昨日の疲れがとれていない・・二度寝Zzz・・
ー、マット下の石のせいで背中が痛いし寝袋は半脱げで冷え切っちゃったよ
えーっと、おれは誰でここはどこなんだっけ???
あ、そうだ、昨夜は八久和川のほとりで沈没したんだった
そうか、今日は本流の流れを遡って進まなきゃいけないんだなぁ。。
ぼんやりした頭を少しづつ現実に引き戻しながら、朝食と弁当の料理がスタートした。みんなもかなりダルそうだが、しゃべったり食べたりして口を動かすとなんとなく目が醒めてくるのが不思議。

改めて出合から眺める本流は、下降してきた小国沢とはくらべものにならない太さだ。昨日とは違った遡行が楽しめるだろう。先行者もいることなので、ゆっくりペースで出発だ。これから目指すテン場は平七沢出合。気持ちいい晴天の下、竿を出しながらのんびり遡行をはじめた。

隊長はいつものハイペースで次々とイワナをキャッチ!
賢司さんのオネエテンカラも冴えている!
昨日は土気色の脚攣り師だったマニちゃんも、今日は笑顔の釣り師だ!
そして、良いポイントを丹念に攻めた佐藤ちゃん、例の潜水艦には程遠いもののナイスサイズのイワナをゲット!
僕もルアーを泳がせようと小さな釜に立つと、後ろに座り込んでのんびり眺めているメンバーたち。小さくてもキャッチすれば拍手、掛け損なえば爆笑と冷かしの声が飛ぶ。
こういうガツガツしない釣りが渓美隊スタイル。シーズンの終わりにふさわしい、楽しい釣りのひと時だった。

茶畑沢を通過するとすぐに大きな淵にさしかかった。ここからしばらくは装備を整えて遡行に専念だ。まずあらわれたのは大ハグラ石滝。水量が多いと難しい場所らしいが、この時はそれほどでもなかった。左右に渡渉を繰り返しつつ、わりとすんなり通過してしまった。
しかし、その先のS字状の長渕はなかなかやっかいな場所である。大きなプールを越えた後、左岸を巻いて淵を見下ろす岩棚に下降。この先は圧縮された流れにイヤラシイ倒木がかぶさり、少々難しそう。さあ、誰が行く? という空気の中、進み出たのは賢司さんだ。ジャンプで渡渉してからロープを引いての泳ぎなど華麗な突破を見せてくれた。さすがは「登って泳げるオネエ」である。

その先の水路状の部分もロープを使って通過。こんなところでモタモタせずにさっさと行きたいが、流れが強くて難渋する。すっかり体が冷え切ったところで、長渕の最後に待っていたのは2mに満たないけれどいやらしい落ち込みだ。左岸の岩さえ超えれば通過できるが、ホールドに乏しく一人ではまったく歯が立たない。冷水に浸かって肩を貸してくれたマニちゃんのおかげで、なんとか滝上のホールドをつかんだ。
その先も所々で首まで水につかったり軽く巻いたりを繰り返して進む。函状の淵を、寒い!ちべたい!と騒ぎながら通過してそろそろ休みたくなった頃、平七沢出会いの快適なテン場に到着!
今夜はたっぷりの肉にイワナと焚火も加わり、贅沢な宴会がスタート。昨日の沈没が早かった分までゆっくり楽しんだ。


いよいよ八久和本流の遡行が始まる


竿を出しながら


今釣行最大のイワナに佐藤が吠える!


潜水艦は出なかったけどね


ルアーで良型連発!


本流は日当たりがよいので泳ぎも楽しい


ショルダーで乗っ越す


泳ぐ


また泳ぐ


平七沢出合いのテン場にて  2日目の宴会開始!


ハツモト


ピザ


イワナせんべい


「よ〜せ〜よ〜」

3日目】

昨日の朝とは大違いの爽快な目覚め。どうやら山越えのダメージもとれたらしい。隊長特製のイワキュウ巻きをほおばりながらの弁当作りだ。

今日の予定は岩屋沢出合のテン場まで。距離は昨日の半分だし、悪いところも少ないらしく飛ばせば2時間ほどだろう。河原をのんびり歩いたり、キノコを探しに斜面をあがったりとできるだけゆっくり進むが、なんと昼過ぎにはテン場についてしまった。これから荷物を置いて釣り上がってもよいのだが、釣りは昨日十分楽しんだので誰も出撃しようとせず、みんなで昼寝&昼酒をたのしむ。あいかわらず「釣り<酒」の渓美隊である。まだ夕方にもならない3時から最終夜の大宴会スタート。7時間かけてすべての酒を飲み干し、思い残すことなく寝袋に潜り込んだ。


イワキュー食って3日目の遡行開始!


今日ものんびり竿を出しながら


数匹のイワナをキープ


岩屋沢出合いのテン場にて  3時から宴会に突入


アヤシイ雰囲気のふたり


付き合ってるでしょ、絶対・・・


最終宴会は7時間に及んだ・・・

【4日目

昨日は丸一日のんびりすごせたので、今朝も目覚めは上々。名残惜しいが、今日はこの谷から街へ戻らなければならない。潜水艦には出会えなくても十分に楽しませてくれた八久和の流れに別れを告げ、急な支尾根につけられた登山道で一気に高度を稼ぐ。肉を食べ尽くし、酒を飲み尽くしたのでデカザックもだいぶ軽くなっている。薄曇りの涼しさにも助けられ、3時間ほどがんばって天狗角力取山に到着し、記念撮影。
栗畑のピークまでもうひとふんばりの後、きつい階段下りを順調にこなしどんどん高度を下げて行く。不思議な形の竜ヶ岳を眺めながら長い稜線を下り、脚に4日間の疲れを感じはじめたころなんとか無事に車止めに帰還した。

やっぱり八久和は遠く大きな谷だった。潜水艦は拝めなかったが、深い山懐の中で最高の仲間と4日間もすごすことができて大満足。渓美隊は、きっとまたこの流れに帰ってくるだろう。


下山日の朝  今回もいい天気だ


アミノバイタルを呑んで闘志を燃やすマニキ  「今日は足攣りませんように」


天狗への登山道に取り付く


マニキの足も攣らず、順調に高度を上げる


天狗角力取山 (てんぐすもうとりやま)


土俵入りの連続写真で〆!


眼下に見えた天狗小屋  次回はぜひ泊まってみたい