報告 菊地 顕一




9月号の「ヤマケイ」の特集は『「近くて良い山「谷川岳」』だった。
というわけで、6月に日帰りハイキングで谷川岳に行ったのを思い出したのでネタをひとつ・・・。
震災発生以降、今年は例年以上に休日出勤が多くなり、渓美隊のメンバーとなかなか一緒に遊びに行けない日々が続いている。メンバーが週末に渓へ出かけるのを尻目に指をくわえ悶々とする。やっとのことで平日の仕事の調整がつき、「一人遊びしちゃいませう♪」ということで、谷川岳へハイキングに出かけることにした。
朝早く大宮から新幹線に乗り、上毛高原でバスに乗り継ぎ、土合駅から谷川岳ロープウェーで一気に天神平駅へ。「ちょこっとズルした気分!?」いいえ、いいのです。日帰りなのですから♪
さすがに平日、あたりに人はいない。静かな山歩きが期待できそうだ。峠リフトに沿って斜面右側を登り稜線へ出る。稜線から見上げる谷川岳方面はガスが勢いよく流れ山頂を隠している。すぐに赤い外観の熊穴沢避難小屋へ到着。同じ埼玉から来たという若いご夫婦にシャッターを押してもらい、先を急ぐ。今回は谷川岳双耳峰トマノ耳、オキノ耳を経て、一ノ倉岳、茂倉岳を踏んで茂l倉新道がら土樽へと下るコースを行く。
ロープやクサリが架かったところを2、3ヵ所過ぎると「天狗のトマリ場」。振り返るといま歩いてきた天神尾根が気持ちよく伸びている。足元の高山植物に目をやりながら、引き続き歩きはじめる。
肩の小屋直下で残雪、相変わらずの「自分撮り」で何回撮り直したあと、100m幅ほどの残雪を進んでいくと肩の小屋に到着した。辺りは一面ガスの中、時間はちょうどお昼。小屋番の馬場さんから缶ビールを2本買い、板張りのとてもきれいな休憩室で昼食とする。


通勤姿のサラリーマンが目立つなか、今回はちょっと旧式の新幹線で


朝飯の「かしわ弁当」 う〜ん、この一瞬がタマランチ会長


ロープウェーで一気に天神平へ


天神平駅


花もきれいに咲いている(何の花かワカランけど・・・)


さあ、今日も一日ハリキッテ行きましょー!


木道合流地点の指導標


山頂方面にガスがかかってきた



熊穴沢避難小屋で記念撮影


こんな可憐な高山植物を横目に


クサリ場を進んで行く


相変わらず花の名前は知りませんがー


肩の小屋直下の残雪 約100mをロープを頼りに進む


肩の小屋に着くと辺りはガスに覆われていた


んでもって、まずはンビールで喉を潤す


菊地目線の先にはキレイにそうじされた休憩室 階段で2回の寝室へいけるようだ

一時間弱の昼食休憩の後、出発。まだまだ行程の3分の1ほど、もたもたしてられない。なんたって土樽駅から越後湯沢行きの上越線は本数が少なく、乗車予定の18時07分の電車の次は21時近くの電車になってしまうのだ。急がなければ・・・。
小屋裏手すぐにトマノ耳、10分弱でオキノ耳。西側平標山へと続く稜線の景観を期待していたが、相変わらずのガスの中。晴れていればおそらく高度感いっぱいのすんばらしい景色を眺めながらの稜線歩きになると思うのが、今回は仕方ない、あきらめるしかないな。
一ノ倉岳山頂の小さな広場にはカマボコ形の一ノ倉岳避難小屋。大人2人が寝るのがやっとだろう。ここからは茂倉岳を経て土樽まで下り基調だ。
一ノ倉岳から歩き始めると前方からご婦人の2人組が歩いてきた。

私:「こんにちは〜!」と声をかけて通りすぎようとすると。
ご婦人A:「あのう、どちら方面までいかれるのですか?」
私:「土樽まで下りる予定ですけど。」
ご婦人B「この先に一面雪が残っててガスで5m先すら見えないんです。軽アイゼンは持ってるんだけど・・・。」
ご婦人A「蓬ヒュッテに予約とってるんですけど、残雪がどのくらい続いているかわからないし、方向見失ったら怖いから諦めて戻ってきたんです。」
私:「はー、そうですか・・・。」
ご婦人B「おにいさんは、このまま行かれるの?それじゃぁ一緒に連れてってもらおうかしら?」
などとオバサン特有の身勝手な事を言い出しはじめた。

内心<そんなこと言っても、何かあっても責任持てないんですけどー>と思いながら

私:「でも僕この道初めて通るんですよー、アイゼンはもいってるんですけどねー。」
ご婦人A:「あらぁ、そうなのー、じゃあ心配ね。それじゃ、やっぱり天神平まで戻ることにするわぁ。それじゃお気をつけてー。」
なんて言ってサッサと下ってしまった。
なんつー人騒がせなオバハンなんや!!
気を取り直して下って行くと、ほどなくして辺り一面真っ白な世界に飛び込む。どうやらここがオバサンの言ってた残雪箇所のようだ。軽アイゼンを装着し、地図と磁石で進むべき方向を照らし合わせながら進む。視界は10m先がやっと。しかし100mも進むと左下の土が露出した部分に登山道が顔を出した。それから5分ほど進み茂倉岳山頂に到着した。
自分撮りをしながらの歩きは意外と時間がかかってしまうものだ。時計の針はなんと15時を大幅に回っている。土樽駅発の電車時刻は18時07分。このまま普通に歩いては電車に間に合わない。ここからはコースタイムを縮めてガンガン下って行くっきゃない!
茂倉新道を10分ほど下ると茂倉岳避難小屋。中は整理整頓がされておりチョーきれいでトイレも別棟。宴会山行でゆっくり泊まりたい小屋だ。写真を数枚とり、水場も確認しておきたかったが時間が惜しいので先を急ぐ。


「王様の耳はトマの耳〜っ!」  ん?どっかで見たポーズ?(確認してみよう)


稜線の高山植物  特にコメントが思い浮かびませんが・・・


双耳峰 谷川岳制覇


ガスの中稜線を進む  晴れていればなぁ〜!


稜線途中の浅間神社


道中の無事をお願いする


こんな花も咲いてた


一ノ倉岳山頂と一ノ倉岳避難小屋



小屋内部 3人はキビしいだろう


問題の残雪 ひんやりとした空気にオバサンたちへの憤りも一気にクールダウン




茂倉岳山頂


将棋の駒の形をした茂倉岳避難小屋  左はトイレ棟



管理がいき届いた小屋内部 宴会してみたい!

万太郎谷側がガスに覆われた稜線をひたすら下って行く。矢場の峰に差し掛かる頃、右ヒザの裏が痛み出した。あと2時間、コースタイムも15分縮めなければならない。このままではマズイ、急な下りに堪えきれるだろうか?
足の痛みに耐えながら一心不乱に森を駆け下り、頭は真っ白、心はボロボロ状態で何とか茂倉新道登山口の広場までたどり着いた。
ここから土樽駅までのコースタイムは30分。時計の針は17時42分を指している。こんなに頑張って下りてきたのに、あと5分もコースタイムを縮めなければならないなんて・・・。涙が出そうになる。
んなこと言っても、これを逃したら21時近くまで電車はない。痛む足を引きずりながら前へ進む。途中、川沿いでフライフィッシャーが車の脇でゴソゴソやっていたので、「あのう、土樽駅まで乗っけてってくれませんか?」とお願いしようと声が喉元まででかかったが、「このツライ状況がいつか山でピンチになったとき役立つ。明日の糧になるのだ!!」と自分に言い聞かせ、そのまま通りすぎた。なんか、この時は変なアドレナリンが出ちゃってたみたいである。
電車発車まであと7分。魚野川の橋をわたり、高速の下をくぐり抜け、土樽駅はもうそこに見えている。
それはまるで、あのロス五輪女子マラソンのアンデルセン選手を彷彿させるかのような足取り。ひとり「ゴ〜〜〜ル!」と手を高々と上げ駅に着いた時には、電車発車の3分前。自販機でコーラを買い、痛い足を引きずりながら急いで反対側のホーム渡る。とそこに列車が到着・・・。我ながら「良く頑張った!」と自分で自分を褒めてやりたい気分でいっぱいだった。
(・・・後で気付いたことだが、電車に乗り遅れてもタクシー呼んで湯沢駅まで行けばよかったのだから、痛い思いをして焦ることもなかったのだ!)


眼下に万太郎谷 関越トンネルの通気口が見える


矢場の頭  遠くに大源太山のピークがひょっこり見えた


可愛い花に足の痛みも一瞬忘れる


茂倉新道の登山口広場へ到着  ここからはさらに厳しい時間との勝負が始まる


ホームが見えてきた、もうすぐだ!


ゴーーーーール!! 頑張ったキミを褒めてあげたい 顔は元気を装ってますが心と体はボロボロです

列車に揺られ越後湯沢駅へ。あとは駅構内の「ぽんしゅ館」で温泉に入って汗を流しスッキリした後、軽〜く一杯引っかけてイイ気分で新幹線に乗り込むだけだ。と、ぽんしゅ館の入口へ行くと、なんと電気が消えているではないか!駅員さんによると、この時期の営業時間は17時30分までとのこと。「ガビーーーーン!!」
しかたなく、すぐに発車する新幹線の切符を取り、缶チューハイ2本買って車内へ。すると隣の席には、「ゴスロリファッション」っていうんですか?あのピラピラした服で、頭になんか白いのつけてハイソックス履いてるみたいなやつ。それに身を包んだ少女が座っておりまして、「なに!?このオジサン!超汗くさいんですけどー!」的な視線がビシビシ突き刺さったあと、そこまでするか!ってほど思いっきり体をそむけられたのです・・・。
もう40も半ばのオジサンとしては、「ムッ」とする気力があるわけでもなく、「ホントにごめんね〜、お父さんも悪気があって汗クサイ訳しゃないんだよぉー」と、ただただ心の中で謝るばかりなのでした。そしてついに缶チューハイのプルトップは、大宮駅まで空けられることがなかったのは言うまでもありません・・・。    おしまい。